三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<LII>

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「それじゃ、どういう…………?」

「いまから言うから、耳貸してもらっていい?♡♡」

 身体をのぼってきた視線が、髪に隠された耳の周辺を漂っている。

「うん。……どうぞ?」

 視線が示したいわれるままに髪を掛け、露出させた耳を彼に向けた。

「ありがとう♡ もうひとつの問題っていうのはね……♡ きみがかわいすぎて、抱き締めてるだけじゃ足りなくなっちゃいそうだ……ってこと♡♡」

 彼はすかさず身を屈め、御機嫌な声を吹き込んできた。

「! ……それって……♡」

 身体が大きく跳ねて肘鉄を食らわせてしまうところだったけれど、間一髪のところで腕を引けたうえに、心臓がどくんと跳ねたのをカモフラージュできたので、結果的にはよかったのだと思うことにした。

「うん♡ たぶんきみが考えてるみたいな感じで合ってる♡♡ 自分でも言ってて恥ずかしくなるけど♡ でもさ、何回キスしても何秒ハグしても足りるわけないんだよね。があるって知ってるから。俺、どれだけきみのことが好きなんだろうね♡♡」

 しかし、耳孔に感じる熱は一向に冷める気配がない。その理由は彼が話し続けているから……ではなく、彼の語る内容にある気がした。そうでなければ、鼓動が速いままで固定されてしまっていることに対する説明がつかない。
 
「いや、あんまりこういうこと言いすぎてもプレッシャーになっちゃうか。自分の思ってることをなるべく誤解のないように伝えるって難しいね。言葉数だけ多くても、伝わってなかったら意味ないし。俺はきみに安心してほしかっただけなんだけどなぁ…………」

 彼はそう言い、身体を離した。

「えぇっと……?」

「やっぱり伝わってないか。そうだな……。ひと言でいえば、『いまよりもっと恋人らしいことしたいと思ってるのは、きみだけじゃないんだよ』ってこと。現時点で少しも安心させてあげられてない俺が言っても説得力ないのはわかってるんだけどさ…………」

 物憂げなため息が、前髪の隙間を潜り抜けていった。

「最近のきみは、考えすぎてなんにもできない俺の代わりに積極的になってくれてたんだよね? 『このままじゃ、いつまでもいまのままで一歩も進まないんじゃないか』ってふうに思わせちゃってたかもしれない。……さすがにこの前、反省したんだ。俺はなにをしてるんだろう、って。きみにばっかり頑張らせて情けないな、って……」

 あらわになった額の真ん中にキスが落とされる。
 
「え? 全然そんなつもりじゃなくて……! わたしも君と同じで、君が好きすぎて我慢できなくなっちゃっただけというか…………!! いつも君にばっかり頑張らせてるのは、わたしのほうでしょ? わたしが1回『好き』って言うまでに、きみは100回くらい『好き』って言ってくれてる気がするし……」

 普段は躊躇う二文字をいともたやすく口にしたわたしを、彼はどう思っただろう。
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