三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<LI>

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(…………だめだ。ちゃんと言おうと思ったのに……。誤魔化そうとしないで、さっき言っちゃえばよかった。『シュークリームより君のほうが好き』って)

 先ほどの決意はどこへやら、小さく開いた口は夜明けを迎えた月下美人のように静かに閉じていった。
 
「あとで一緒に買いに行こっか?♡♡ うちからいちばん近いケーキ屋さんまで、お散歩がてら♡ ケーキはそこまで口に合わないけど、シュークリームとプリンは好きって言ってたよね♡ ……あ、すぐそこのコンビニでもいいのか。期間限定のマロンシュークリームがおいしかったって先週言ってたもんね♡ どっちにする?♡♡ はしごしちゃってもいいよ♡♡」

 一部始終を見ていた彼が、もう一度わたしをふわっと包んだ。

(覚えててくれたんだ…………)
 
 マロンシュークリームの話をしたのは、彼が生徒会の書類を片付けているときのことだったと記憶しているし、余計な情報を付け加えて混乱させてしまったら悪いと思って、どこのコンビニチェーンの商品かということまでは話さなかったはずだ(……ということは、自分で調べてくれたということになる)。

(……あぁ、ほんとに好きだなぁ。やっぱり伝えてもらってばっかりじゃだめだ。わたしも伝えないといけない。彼のためだけじゃなくて、わたしのためにも。言葉にして出していかないと、苦しいだけじゃ済まなくなって、いつか潰されちゃう。そんなのばかみたいだもん。彼は変なこと言っちゃっても笑ったりしないひとだって知ってるんだから、『好き』って言うくらいなんてことないでしょ?)

 小さな小さな決意を秘めて、あたたかな腕を脱け出した。

「ん?♡ あとでじゃなくて、いまから出たい?♡ 俺はいつでも大丈夫だよ♡♡」

 その行動をお出掛けの催促だと解釈した彼は、右手でわたしの左手を取った。

「…………ううん、今日じゃなくていい……」

「そう?」

「うん。シュークリームも好きだけど、シュークリームより君のほうが好きだから、今日は君にたくさんぎゅーってしてもらうほうがいい……♡ して…………くれる……?♡♡」

 抱き締めてほしいと言ったそばから、彼の手をぎゅっと握ってしまった。

(い…………言っちゃった…………!!? じゃなくて、言えた……! やればできるんだ、わたし……!)

「……さっきはひとつ問題があるって言っちゃったけど、もうひとつ問題あったかも……♡♡」

 右手の自由を奪われた彼は、もう一方の手も使ってわたしの左手をそうっと包んだ。

「えっ!? もしかして大切な用事があったのを思い出したとか……?」

「ううん♡ 大事な用事が控えてるときにきみと会ったりしないよ。そんな隙間時間に詰め込むみたいな失礼な真似したくないし、ふたりっきりで過ごせる時間に集中できないのは嫌だから、きみと会うのはそういう面倒なこと全部片付けてからって決めてる。……だから、心配しないで?♡ 俺の今日の予定はきみとのデートだけだから♡♡」

 ウインクが飛んできて、包まれている左手と顔を中心に全身が熱を持った。
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