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アフター・アフター・レイン・トーク
アフター・アフター・レイン・トーク<LXXIX>
しおりを挟む(大好き……。本当に好き。……まだ言えてないけど、彼には『愛してる』って言っても嘘にならないんだろうなぁって思えるくらい好き。だけど、こんなに好きでも――……全部を好きになれるかっていうと、そういうわけじゃないみたい…………)
声以外のものから感じ取れる愛を感じ切って、ゆっくりと瞼を開けた。目が完全に開くとともに覚悟を決めて、もう一度だけ力を込めてまばたきをする。
彼からは見えないところで行われた一連の動作は、ほんの少し儀式めいていた。
「わたし、君のそういうところだけはき……き……き…………じゃなくて、あんまり好きじゃない、かも…………」
覚悟――――は済ませたはずなのだけれど、どうしても大好きな彼に『嫌い』と言うことはできなくて、苦し紛れに選んだ曖昧な言葉をほとんど口を動かさずに言い切った。
(こんなはっきりしない言い方するの、かえってよくなかったかな……。でも、『嫌い』なんてどんな理由があっても言いたくなかったし…………)
もにょもにょと口にしたひと言を、彼はどんな気持ちで受け取ることになるのだろう。
「え……!? …………う、嘘!? そりゃ完璧な人間なんていないし、俺だって至らないところばっかりだけど……。きみは俺のどういうところが好きじゃないの? 教えて、次会うときまでに直すから……!」
気の毒なことに、彼はいままでに見たことがないほど取り乱してしまっていて、声からも当惑と憔悴が伝わってきた。
「えっとね……。君は確かにすごい人だけど、すごい人だからこそ次会うまでの短いあいだじゃあ直せないかも……」
我ながらなにもトドメを刺すようなことをしなくても……と思ったけれど、それだけ改善を求めたいという気持ちが働いてしまったのだろう。
(言われた側だったら絶対に意味わからないよね!? でも、本当にこればっかりは……彼のいいところが裏目に出ちゃってるとしか思えないし……)
「そんなぁ…………。じゃあ、俺、どうしたらいいの……?」
彼はわたしの横にしゃがみ込み、椅子の端にちょこんと両手の指を揃えて置いて、上目遣いで見上げてきた。
(彼には悪いけど、ちょっとかわいい……♡ いつも余裕たっぷりで自信満々だと思ってたけど、強いふりしてたのと同じで、背伸びして頑張ってくれてただけだったのかも…………)
その仕草ももちろんかわいかったのだけれど、それ以上にわたしの心を擽ったのは潤んだ瞳とあわれっぽい声だった。
(お顔もポーズも声も子犬みたいでやっぱりかわいい♡♡)
「とりあえず教えて? きみは俺のどういうところが気に入らないの……?」
彼はその状態から正座に直ったようで、泣きそうな顔が一度だけ近付いて再び離れていった。
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