yours-夢の罪過-

●REC

●REC＜43＞

（…………こんな風に抱き締められただけで胸が苦しくなるのは、今まで知らんぷりしてた罪悪感だけじゃないんだろうなあ……。これもう完全に好きになっちゃってるときの感じだもん。久しぶりだけど覚えてるよ、この感覚……）


　好意や躊躇い、気遣いといった彼の気持ちをすべて内包したその行動が胸を打つ。恋愛初期のなれしたしんだ苦しさとの再会に鼻の奥がつんとしたりもして。

（だけど、こんなものじゃない。ここがゴールじゃない。私はもっと――今以上に鏑木くんを好きになれるはず。たくさんの人に分散させちゃってた『好き』が全部彼一人に向かうようになったら、私もきっと鏑木くんみたいに一途になれる……）

　少しずつ少しずつ力のこもっていく腕に応えるように、他の動物の皮を被りがちな身体を抱き締め返した。

「紗世ちゃん？♡♡♡」

　私は彼の着込む皮以上に様々な顔を見せる彼が好きだ。大好きだ。――そして、臆面もなく『愛してる』と言えるようになりたい。
　
　罪悪感や後ろめたさ、打算なんかではなく、純粋に。心から。何年も私に愛情を注ぎ続けてくれている彼のように。

「ううん。嫌じゃない……。『好き』って言ってもらってるみたいで……♡♡ すごく、すごく嬉しい♡♡」

　背中から持ってきた右手で頬を包んだら、彼が微笑んで指が押し上げられた。

「くどいかなと思って遠慮したんだけど、聞こえちゃってたんだ♡♡ 俺の心の声♡ バレてるんだったら一回くらい声に出しちゃってもいいかな？♡ 大好きだよ、紗世ちゃん……♡♡」

　近くで聞こえた彼の声は、濃く作りすぎたカルーアミルクより甘かった。
　
（…………だから、鏑木くん。今まで私が好きになった誰よりも私を愛してね？♡♡ 私のこと繋ぎ止めてて♡ 浮気する時間も体力も奪っちゃっていいから……♡ もう一生、他の人と恋愛出来なくなっちゃっていいから♡♡）

　そうっと左胸に手を置くと、返事をするかのごとく鼓動が速まった気がした。

（でも、気になってることは聞かせてもらわないと！　全部は水に流せないかもしれないけど、有耶無耶にして平気でいられるような人のことは私だって愛せないと思うし。試すみたいで悪いけど、聞かせてね……！！　まあ、自分にも都合の悪いことだけ映ってるかもしれない映像を堂々と見せてくる鏑木くんが隠し事してるとも思えないけど）
　
　多弁な彼は無言で私が話し出すのを待っている。

「……たぶん私が見た以上の答えはないと思うけど、一応聞くね……？　今、観せてもらったこの映像は何…………？　なんだったの？」

　まばたきひとつするたびに、細切れのワンシーンがランダムにプレイバックする。どのコマを切り取っても彼は幸福そうで、宝物を扱うように私を愛でていた。