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僕は、莉子の真実の姿を知らない
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藤井先生の退院も間近に迫り、僕と黒壁の準備も抜かりがなかった。莉子は、立位保持が、10秒は、可能になっていた。麻痺していた足裏の感覚を取り戻してからが、早かった。毎日、フラメンコで鍛えていた基礎体力が、戻ったのだろう。頭は、忘れていても、体が感覚を覚えていた。足先に感覚が、戻ってからが早かった。後は、筋力を作る食事を充実化し、筋トレを重視した。並行して行う可動域訓練。鍛えていた身体が目を覚まして、僕らの予想以上に、体が反応していった。
「莉子?」
スタジオでは、レッスンに参加し、疲労の度合いに合わせて、車椅子を使用し、足の練習も行なっていた。一緒に、レッスンすると、クラスの皆んなが、声を掛け、莉子は、その都度、笑顔で答えていた。
「莉子ちゃん!」
「莉子先輩!」
様々な呼び方で、莉子との関係がわかるなぁと、僕は、笑いたくなった。
「何、ニヤついているんですか?」
「いやね・・・みんな、莉子の事を知っているんだなと思って」
「そりゃぁ、知っているわよ。怪我するまで、ナンバー2って言われていたんだから」
「ナンバー2?莉子が?」
「何も、知らないのね?ただのお嬢様だと思っていたの?」
「フラメンコの練習生とは、知っていたけど」
「その程度?市長の娘と言うのは、皆、知っているけど。どちらかというと、フラメンコで、有名なのよ。うちら界隈では」
「そうなんだ」
僕が、莉子の事を、あまり知らなかった。車椅子に座り心許ない表情で、遠くを見つめていたあの姿しか。市長の娘ということで、災いに巻き込まれた事もあったけど、あまり、彼女の家庭の事は、知らなかった。
「莉子の事をよく知らないのね。」
そう言われて、ハッとした。夫の陰に隠れて、家の事情で結婚した莉子の事情を考える事がなかった。
「何を話しているの?」
他のスタッフと打ち合わせをしていた莉子が、僕らの会話に飛び込んできた。
「う・・・ん。意外と、僕は、莉子の事を知らないなぁって」
僕と話をしていたスタッフは、手で合図をしながら、その場を離れていった。
「私の事?過去の事を聞いても、仕方ないじゃない?」
「確かに、そう」
「でしょ?」
まだ、疲労感が強い莉子は、車椅子で、後輩の指導にあたる。腕の動きくらいは、指導できるそうだ。それに、スタジオ全体で、藤井先生にサプライズを用意していた。
「藤井先生の泣く顔を見ないとね」
みんなで、藤井先生にお披露目する曲目を選んでいるときに、2階の控室にいたスタッフが、顔色を変えて、教室に飛び込んできた。
「テ・・・テレビで・・・」
休憩の時間に何気なく、テレビを付けたら、ニュースが流れて来たそうだ。それは、莉子の父親の汚職の件だった。
「莉子?」
莉子は、驚く訳でなく、目を伏せてしまった。
「大丈夫?」
「えぇ・・」
「外に行く?」
僕は、心配して莉子を取り巻く中から、外へと連れ出す。
「全く、知らなかった訳ではないの」
「知っていたの?」
「知っていたというより。その可能性は、あるんだろうなって。そういう人だから」
「結婚も、君の父親が決めたんだろう?」
「そうよ。私の好意に、父親が乗っただけ。だけど・・・」
莉子は、僕を見つめた。
「大変。架の会社も巻きこむわ」
慌てて、携帯を探し始めた。
「莉子?」
スタジオでは、レッスンに参加し、疲労の度合いに合わせて、車椅子を使用し、足の練習も行なっていた。一緒に、レッスンすると、クラスの皆んなが、声を掛け、莉子は、その都度、笑顔で答えていた。
「莉子ちゃん!」
「莉子先輩!」
様々な呼び方で、莉子との関係がわかるなぁと、僕は、笑いたくなった。
「何、ニヤついているんですか?」
「いやね・・・みんな、莉子の事を知っているんだなと思って」
「そりゃぁ、知っているわよ。怪我するまで、ナンバー2って言われていたんだから」
「ナンバー2?莉子が?」
「何も、知らないのね?ただのお嬢様だと思っていたの?」
「フラメンコの練習生とは、知っていたけど」
「その程度?市長の娘と言うのは、皆、知っているけど。どちらかというと、フラメンコで、有名なのよ。うちら界隈では」
「そうなんだ」
僕が、莉子の事を、あまり知らなかった。車椅子に座り心許ない表情で、遠くを見つめていたあの姿しか。市長の娘ということで、災いに巻き込まれた事もあったけど、あまり、彼女の家庭の事は、知らなかった。
「莉子の事をよく知らないのね。」
そう言われて、ハッとした。夫の陰に隠れて、家の事情で結婚した莉子の事情を考える事がなかった。
「何を話しているの?」
他のスタッフと打ち合わせをしていた莉子が、僕らの会話に飛び込んできた。
「う・・・ん。意外と、僕は、莉子の事を知らないなぁって」
僕と話をしていたスタッフは、手で合図をしながら、その場を離れていった。
「私の事?過去の事を聞いても、仕方ないじゃない?」
「確かに、そう」
「でしょ?」
まだ、疲労感が強い莉子は、車椅子で、後輩の指導にあたる。腕の動きくらいは、指導できるそうだ。それに、スタジオ全体で、藤井先生にサプライズを用意していた。
「藤井先生の泣く顔を見ないとね」
みんなで、藤井先生にお披露目する曲目を選んでいるときに、2階の控室にいたスタッフが、顔色を変えて、教室に飛び込んできた。
「テ・・・テレビで・・・」
休憩の時間に何気なく、テレビを付けたら、ニュースが流れて来たそうだ。それは、莉子の父親の汚職の件だった。
「莉子?」
莉子は、驚く訳でなく、目を伏せてしまった。
「大丈夫?」
「えぇ・・」
「外に行く?」
僕は、心配して莉子を取り巻く中から、外へと連れ出す。
「全く、知らなかった訳ではないの」
「知っていたの?」
「知っていたというより。その可能性は、あるんだろうなって。そういう人だから」
「結婚も、君の父親が決めたんだろう?」
「そうよ。私の好意に、父親が乗っただけ。だけど・・・」
莉子は、僕を見つめた。
「大変。架の会社も巻きこむわ」
慌てて、携帯を探し始めた。
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