同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第六十二話 好きの定義、物語の中と外

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金曜日の夜。

 夕飯を済ませたあと、俺は自室でパソコンの前に座っていた。
 画面の右側には第十一話の原稿、左にはルナから受け取った短編小説のPDFファイル。

 読み進めるごとに、胸の奥がじわじわと熱くなる。

 書き手としての文体はまだ粗削りだが、それがむしろリアルで、痛いほどに“彼女の心”を感じさせる。

『中二病は、逃げ場所だった。現実で傷つきたくなかったから。
でも、君と出会ってから、私は現実に惹かれてしまった。
苦しくても、ちゃんと“誰かの隣”で生きたくなった。』

(……これは、ルナが俺に向けて書いた“告白”だ)

 比喩でも、キャラでもない。
 本当の気持ちを、彼女なりの言葉でぶつけてきている。

 読むだけで、息が詰まりそうになる。

 その夜遅く。

 コンビニまで出かけようと玄関を開けた瞬間、そこにはひよりが立っていた。

「……わ」

「え、ひより? こんな時間に?」

「歩いて三分のところに住んでるから、ふらっと来てみただけ」

 手にはノート。いつもの観察ログ帳だった。

「話、したいと思って」

 家の前の歩道に並んで座る。
 秋の空気が冷たくて、静かだった。

「ルナさん、小説書いたんだってね」

「……なんで知ってる?」

「わたしも提出したから。今日、顧問の先生に聞いたの」

「そっか。ひよりも出すんだ」

「うん。でも、ただの観察記録じゃないよ。
 タイトルは“わたしの好きは、測れない”」

 その言葉に、ドキリとした。

「観察者でいることに、最近すごく疲れてるの。
 感情を記録するばかりで、自分の気持ちに向き合ってなかった」

 彼女はノートを開いて、数ページ進める。

 ある日付のページに、こう書いてあった。

『彼の言葉に、胸が締めつけられる。
目を合わせただけで、息ができなくなる。
これはもう、記録ではなく――“恋”だ。』

「……誰のこと?」

 わかっているのに、聞いてしまった。

「それを、まだ言葉にできないから。
 だから物語にしてるの。自分の心を、ようやく正面から見るために」

 ひよりは立ち上がって、静かに頭を下げた。

「勝ちたいんじゃない。選ばれたいんでもない。
 ただ、あなたの“本当の気持ち”を知りたい」

 その背中が去っていったあと、俺は動けずにいた。

 あいつらはみんな、“好き”を、物語に変えて投げてきている。

 じゃあ俺はどうなんだ。
 自分の“好き”に、ちゃんと向き合えているのか。

(選ぶ、じゃない。見つけるんだ。本当に“隣にいてほしい人”を)

 答えの輪郭が、少しだけ見えかけていた。

(つづく)

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