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第九十八話 静寂の執筆室と、ひらりパンツの代償
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恋人の座争奪戦とパンツ物々交換事件から、ようやく二日が経過した。
あの騒がしかった夜たちが嘘のように、今日は静かだった。
ヒロインたちは一斉に“反省”という名目で、各自の家に帰っていった。
ついに訪れた——真壁弘弥の、静寂なる部屋。
こたつの電源を入れ、ルームライトだけを灯し、MacBookの前に座って原稿と向き合う。
キーボードを打つ指先が、パタパタと心地よく響いた。
それは、まさに“作家の時間”。
邪魔もない。事件もない。誰もパンツを盗まない。
……なのに。
俺の集中力は、十ページも保たなかった。
机の隅にある、白い紙袋がちらりと目に入ったからだ。
そう。
あれは——ルナから交換された“あのパンツ”。
「……いや、触らなければ何も起きない」
言い聞かせる。
でも、気づけば、手が勝手に袋へと伸びていた。
「ちょっとだけ……どんなのか確認しておく、作家としての取材だ、うん」
袋をそっと開く。
中から取り出されたのは、ピンク色の可愛らしいレース地の下着。
リボンが前にひとつ。
サイズは……想像通り、小さい。
……やばい。想像以上に女の子の匂いがする。
俺はふと、机の上にそのパンツを広げた。
「ふむ……構造的には、こういうふうに……」
完全に変態発言だった。
だが。
その瞬間——背後から。
「…………お兄ちゃん?」
部屋のドアが、いつ開いたのかも気づかなかった。
俺の背後で、ひときわ静かな声がした。
振り返ると、そこには——
学校帰りと思しき制服姿の碧純。
手にはコンビニ袋。
そして、机の上にはルナのパンツ。
「これはちがう!! 違うんだ!! これは取材でっ!!」
碧純は、じっと見つめていた。
言葉も、感情も、まるでない表情で——。
「ごはん、ひとりで食べてください」
ドアが静かに閉まる。
その音は、俺の心をガラスのように砕いた。
真壁弘弥、完全に終わった。
(つづく)
あの騒がしかった夜たちが嘘のように、今日は静かだった。
ヒロインたちは一斉に“反省”という名目で、各自の家に帰っていった。
ついに訪れた——真壁弘弥の、静寂なる部屋。
こたつの電源を入れ、ルームライトだけを灯し、MacBookの前に座って原稿と向き合う。
キーボードを打つ指先が、パタパタと心地よく響いた。
それは、まさに“作家の時間”。
邪魔もない。事件もない。誰もパンツを盗まない。
……なのに。
俺の集中力は、十ページも保たなかった。
机の隅にある、白い紙袋がちらりと目に入ったからだ。
そう。
あれは——ルナから交換された“あのパンツ”。
「……いや、触らなければ何も起きない」
言い聞かせる。
でも、気づけば、手が勝手に袋へと伸びていた。
「ちょっとだけ……どんなのか確認しておく、作家としての取材だ、うん」
袋をそっと開く。
中から取り出されたのは、ピンク色の可愛らしいレース地の下着。
リボンが前にひとつ。
サイズは……想像通り、小さい。
……やばい。想像以上に女の子の匂いがする。
俺はふと、机の上にそのパンツを広げた。
「ふむ……構造的には、こういうふうに……」
完全に変態発言だった。
だが。
その瞬間——背後から。
「…………お兄ちゃん?」
部屋のドアが、いつ開いたのかも気づかなかった。
俺の背後で、ひときわ静かな声がした。
振り返ると、そこには——
学校帰りと思しき制服姿の碧純。
手にはコンビニ袋。
そして、机の上にはルナのパンツ。
「これはちがう!! 違うんだ!! これは取材でっ!!」
碧純は、じっと見つめていた。
言葉も、感情も、まるでない表情で——。
「ごはん、ひとりで食べてください」
ドアが静かに閉まる。
その音は、俺の心をガラスのように砕いた。
真壁弘弥、完全に終わった。
(つづく)
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