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第一一四話 布地に宿る物語──パンツと創作と俺の業
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深夜。
家の中は静まり返り、ただ俺の部屋の照明とパソコンのモニターだけが灯っていた。
カタカタ……カタカタ……。
指先が、止まらなかった。
久しぶりに、何かが“降りてきている”感覚。
俺は、書いていた。
ずっと悩み続けていた新章。
書籍化が決定してからというもの、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた“あの物語”。
ようやく、物語が動き出したのだ。
きっかけは——あれだった。
部屋の片隅、秘密の引き出しの奥。
小さなケースに入れて保管していた“パンツコレクション”。
碧純、ひより、瑠衣、すみれ、そして……。
俺は、真剣な顔でそれらのパンツを取り出し、一枚一枚、丁寧に見つめ直した。
……誤解しないでほしい。
これは変態的な行為ではない。
俺にとっては、インスピレーションの源。
創作の糧である。
(このリボンのあしらい、デザインから察するに……ヒロインBは、こういう可憐な性格か……)
(これは勝気な赤のレース。ヒロインCはツンデレ系、だが内面に情熱を秘めている……)
俺は、パンツをキャラクターの記号として抽象化し、性格と背景を構築していく。
(この小花柄……純粋無垢。……これはヒロインD、幼なじみポジションで決まりだ!)
構想ノートがページをめくるごとに埋まっていく。
俺の創作魂は、完全に火がついていた。
机の上にはノートパソコンと、5枚の下着。
それぞれラップで包んだ上で、キャラ名とテーマをメモ書きしてある。
書いては、匂いを嗅ぎ……いや、深呼吸してイメージを取り込み、また書く。
異常な光景かもしれない。
だが、これは俺にしかできない執筆スタイル。
(これが俺の、ラブコメだ……!)
その時。
背後で、静かなノック音。
ドクン。
心臓が跳ねた。
まさか、こんな時間に……。
「お兄ちゃん、まだ起きてる?」
——碧純だった。
慌てて机の上の“布地群”をまとめて鞄に押し込む。
「あ、ああ! 起きてるよ! なにか用か?」
「……トイレ行こうとしたら、灯りが見えて。
あんまり夜更かしすると体壊すよ」
「う、うん、気をつける……!」
扉は開かなかった。
碧純はそれだけ言うと、また静かに廊下の奥へ消えていった。
俺は、胸をなでおろすと同時に、奇妙な充足感を覚えていた。
(……よし。続き、書こう)
再びモニターに向き直る。
画面には、ヒロインたちの名前が並び、その隣にそれぞれのセリフが打ち込まれていく。
笑って、怒って、泣いて、恋して。
誰かを想ってパンツを差し出し、恥じらいながらも願うように手渡す。
——それは、俺にしか描けないラブコメだった。
そしてその奥底には、現実で出会った“あの子たち”の姿があった。
(ありがとう……碧純。ひより。瑠衣。すみれ……)
(俺、ようやく物語の続きが見えたよ)
その夜、俺は夜明けまでキーボードを叩き続けた。
全身のエネルギーを、ひとつの物語に注ぎ込むように。
その指先には——パンツたちがくれた、勇気が宿っていた。
(つづく)
家の中は静まり返り、ただ俺の部屋の照明とパソコンのモニターだけが灯っていた。
カタカタ……カタカタ……。
指先が、止まらなかった。
久しぶりに、何かが“降りてきている”感覚。
俺は、書いていた。
ずっと悩み続けていた新章。
書籍化が決定してからというもの、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた“あの物語”。
ようやく、物語が動き出したのだ。
きっかけは——あれだった。
部屋の片隅、秘密の引き出しの奥。
小さなケースに入れて保管していた“パンツコレクション”。
碧純、ひより、瑠衣、すみれ、そして……。
俺は、真剣な顔でそれらのパンツを取り出し、一枚一枚、丁寧に見つめ直した。
……誤解しないでほしい。
これは変態的な行為ではない。
俺にとっては、インスピレーションの源。
創作の糧である。
(このリボンのあしらい、デザインから察するに……ヒロインBは、こういう可憐な性格か……)
(これは勝気な赤のレース。ヒロインCはツンデレ系、だが内面に情熱を秘めている……)
俺は、パンツをキャラクターの記号として抽象化し、性格と背景を構築していく。
(この小花柄……純粋無垢。……これはヒロインD、幼なじみポジションで決まりだ!)
構想ノートがページをめくるごとに埋まっていく。
俺の創作魂は、完全に火がついていた。
机の上にはノートパソコンと、5枚の下着。
それぞれラップで包んだ上で、キャラ名とテーマをメモ書きしてある。
書いては、匂いを嗅ぎ……いや、深呼吸してイメージを取り込み、また書く。
異常な光景かもしれない。
だが、これは俺にしかできない執筆スタイル。
(これが俺の、ラブコメだ……!)
その時。
背後で、静かなノック音。
ドクン。
心臓が跳ねた。
まさか、こんな時間に……。
「お兄ちゃん、まだ起きてる?」
——碧純だった。
慌てて机の上の“布地群”をまとめて鞄に押し込む。
「あ、ああ! 起きてるよ! なにか用か?」
「……トイレ行こうとしたら、灯りが見えて。
あんまり夜更かしすると体壊すよ」
「う、うん、気をつける……!」
扉は開かなかった。
碧純はそれだけ言うと、また静かに廊下の奥へ消えていった。
俺は、胸をなでおろすと同時に、奇妙な充足感を覚えていた。
(……よし。続き、書こう)
再びモニターに向き直る。
画面には、ヒロインたちの名前が並び、その隣にそれぞれのセリフが打ち込まれていく。
笑って、怒って、泣いて、恋して。
誰かを想ってパンツを差し出し、恥じらいながらも願うように手渡す。
——それは、俺にしか描けないラブコメだった。
そしてその奥底には、現実で出会った“あの子たち”の姿があった。
(ありがとう……碧純。ひより。瑠衣。すみれ……)
(俺、ようやく物語の続きが見えたよ)
その夜、俺は夜明けまでキーボードを叩き続けた。
全身のエネルギーを、ひとつの物語に注ぎ込むように。
その指先には——パンツたちがくれた、勇気が宿っていた。
(つづく)
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