同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第一三四話 夜桜の誘惑──酔いヒロインたちの夜の部

　夕暮れ。
　日が落ち、空に紺色が広がっていく。
　桜の花はまだ散らず、街灯に照らされて淡い光を纏っていた。

　俺たちはお花見の続きとして、公園の隅に移動し、焚火のようにランタンを囲んで座っていた。

　そして——

「弘弥くぅん……こっち来てぇ……」

　真っ赤な顔の碧純が、俺の袖を引っ張る。

「だ、ダメだって、酔ってるって！」

「酔ってないもん……酔ってないけど……キスくらい……してくれても……い、いいじゃん……」

「よくない！！！」

　隣では、すみれがココアを飲みながらぽつりと呟いた。

「酔いが回ると、少し大胆になってしまうんです。弘弥くん、今夜は……覚悟してくださいね」

「え、いや、すみれさんまで！？」

　瑠衣が俺の膝に頭を乗せてきた。

「ひろくんってさぁ、なんでそんなにモテるのかなぁ～……わたし、ひろくんのためならなんでもするよ？ ……たとえば、脱いだり……♡」

「やめろおおおおおおおおおお！！！」

　ひよりはというと、俺の背後で微笑んでいた。

「弘弥くん。酔いのデータ、興味深いです。脈拍、体温、汗腺反応。……これが、性的興奮というものなんですね」

「観察やめて！ 今だけはやめてぇぇぇ！！」

　ユナは星空を見上げながら、マントの裾を広げて一言。

「……この夜は特別。封印の解放に最適だ……真壁弘弥、いまこそ契約を交わすとき」

「しないしない！！ なんの封印だよ！？」

　そして、最後にイザベラがそっと俺に寄り添ってきた。

「弘弥様……わたし、この季節が大好きです。
　……でも、もっと好きなのは……あなたと、こうして隣で過ごせること」

　月明かりに照らされた横顔。
　淡い香水の香り。

　心臓が跳ねた。

　この夜は……危険だ。

　でも、その危うさが、少しだけ心地よくもあって。

　俺は、ヒロインたちの笑い声と、舞い散る花びらの中で——
　平穏が、もう戻ってこないことを悟った。

（つづく）