同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一七七話 すりガラスの向こう──幻の官能作家、地上波デビュー

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日曜の朝。
 空は雲ひとつない快晴。
 だが、俺の心は晴れなかった。

 いよいよ、地上波出演の日が来てしまったのだ。

 場所は某局のテレビスタジオ。
 生放送情報番組『日曜の読書室』のスタジオには、緊張した空気が漂っていた。

 “高校生官能小説家”として出演することが許されたのは、極めて異例。
 そのため、徹底的な配慮がなされた。

 まず、俺はスタジオの裏でメイクと変装を施され、マイクチェックでは声を加工する専用機材が用意された。

 そして——

 本番直前。

「真壁先生、セットインお願いします」

 スタッフに案内されたのは、番組のトークブースの一角。
 そこには、一枚の大きな“すりガラスパネル”が設置されていた。

 照明が背後から当たることで、俺の上半身の輪郭だけが曖昧に浮かび上がる。

 顔も体もはっきりとは見えず、マイクから出る声も、電子加工で落ち着いた大人の男性のように変わっていた。

「それでは続いてのコーナー、“今話題の作家特集”です!」

 司会者の明るい声とともに、画面が切り替わる。

『話題騒然! ネグリジェ文学の衝撃』

 画面には、俺の作品タイトルと、アニメ風に描かれたヒロインたちがスライドで紹介される。

「いま話題の電子小説『彼女たちは透けて誘惑する』。この官能作品の著者が、実は現役高校生という事実、ご存知でしょうか?」

 会場がざわつく。
 VTRのあと、画面はすりガラスの俺へと戻った。

「それではご登場いただきましょう、正体非公開の作家・真壁弘弥さんです!」

 拍手が鳴る。

 すりガラス越しに映る俺の姿。
 その下には字幕で【作家・真壁弘弥(仮名)】と記されていた。

 俺は深く一礼する。

 そして、ボイスチェンジャー越しの声で答える。

「本日は、このような機会をいただき、ありがとうございます……」

 質問は、文学的側面を重視したものが多かった。

「“透ける”という描写に込めた思いとは?」
「官能と品性は両立できるのか?」
「なぜネグリジェだったのか?」

 俺は、用意した答えを淡々と、しかし情熱をこめて語った。

 そして、番組が終わるころ——

「最後に一つ。真壁先生、あなたにとって“官能”とは?」

 司会者の問いに、俺は少し間を置き、こう答えた。

「……人の心が、最も素直になれる瞬間の言葉、です」

 その瞬間、スタジオに小さなどよめきが起こった。

 番組は、そのままエンディングを迎えた。

 だが、問題はそのあとだった。

 ネットではすぐに、俺の出演が話題になっていたのだ。

《すりガラス越しの作家、やばすぎる》《声かっこいい》《中の人どんな顔?》《あれ絶対若いだろ!?》《ネグリジェの話ガチすぎて草》

 数時間後、Twitterのトレンドには“すりガラス官能作家”の文字が。

 俺のスマホは、通知音の嵐で鳴りやまなかった。

(つづく)

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