同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第一八〇話 夢精と密偵──秘密の暴露と内親王の本音

　料亭の奥座敷。
　静かな障子越しに、外の雨音がぽつぽつと聞こえていた。

　さきほどの提案。
　エレノア内親王からの、“将来、我が国の文化大臣になってほしい”という言葉が、まだ頭の中でぐるぐると回っている。

　確かに光栄だ。身に余る話だ。
　だが俺は……俺という人間は。

「……エレノア、その話、ありがたいけど」

　俺は深く息を吸い、そして——言った。

「俺、興奮して夢精ばかりしている変態ですよ」

　正直に、真正面から、俺の“本性”をぶつけた。

　あまりにも突拍子のない言葉に、しばしの沈黙が流れた。

　そして、内親王殿下は——涼やかな微笑を浮かべて言った。

「……知ってますよ」

「……は？」

「弘弥様がこの一ヶ月で何回夢精したかも、どのヒロインのネグリジェに反応したかも、全部把握しております」

「な、なんで……！？」

「私の密偵である、“ひより”から、逐一報告を受けておりますから」

　さらりと、とんでもない事実が明かされた。

　俺は椅子から転げ落ちそうになる。

「ひより……？　あの……観察ノートの！？　ちょ、ちょっと待って！？　ひよりって、そっちのスパイだったの！？」

「いえ、正確には“内親王文化研究顧問代理 特別調査官”という肩書きでしたが……まあ、わかりやすく言えば、スパイですね」

「堂々と認めたあああああああ！？」

　思わず箸を落とした。

「弘弥様の表現活動が、内面的煩悩にどう影響されているか、精密な観察が必要だったのです」

　いや、いや、いや待ってくれ。

　つまり——俺はこの一年と数か月、密偵により夢精の回数から妄想の傾向まで完全に把握されていたということか。

　プライバシーの欠片もない。

「……じゃあ、俺が“スケスケネグリジェ”で二晩連続夢精したことも……？」

「はい、知ってます。あれは“桃色フリル型”のが一番効果的だったと、報告されております」

「うわああああああああ！！」

　悲鳴を上げて机に突っ伏す俺。

　エレノアはくすりと笑いながら、湯呑を置いた。

「それでも、あなたの“表現の力”は本物です。煩悩の多さは、むしろ作家としての燃料。私はそう思っています」

　そして、ふっと声を潜めて囁いた。

「……それに、弘弥様のそういう“素直すぎるところ”、私は好きですわ」

　俺の顔は、もう湯気が立ちそうなくらい熱くなっていた。

（つづく）