同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第一九五話 苦情かと思いきや──すみれのおじいちゃん襲来

日曜の昼過ぎ。

　午前中に繰り広げられた“愛情料理の宴”の後片付けも終わり、リビングにはほんの少しの静けさが戻っていた。

　そんな中、玄関のチャイムが鳴った。

「ピンポーン……」

　この静かで低めな音が、やけに緊張感を運んでくる。

「……誰だろう？ もしかして……」

　俺はちらりとヒロインたちを見た。

「……うるさすぎて、ご近所から苦情来たんじゃ……」

「……やば。さっき、ルナの叫び声すごかったし……」（碧純）

「わ、わたし！？ いや、でも確かに“爆誕！！”って叫んだけどさ……」（ルナ）

　全員が固唾をのんで見守る中、俺はそっと玄関を開けた。

　そこにいたのは——

　和装に身を包んだ、白髪の老人。

　無言。

　その背中には、どこか見覚えのある大きな背負い籠。

「……あれ……すみれ？」

　俺が振り向くと、すみれは目を丸くして立ち上がった。

「お、おじいさま！？」

　そう、目の前にいたのは——すみれの祖父だった。

　無言のまま、彼はゆっくりと玄関の中へ。

　その籠の中身を、ひとつ、またひとつと静かに置いていく。

　大根。
　にんじん。
　ほうれん草。
　山盛りのじゃがいも。
　それから——明らかに一般家庭サイズを超えたキャベツ。

　最後に、トマトの入ったカゴをそっと床に置くと、彼は何も言わずに玄関を閉め、去っていった。

　あまりの無言っぷりに、みんな棒立ちになる。

「……え、なに今の。……幻？」（瑠衣）

「いや、完全に現実だったと思う……」

　すみれが顔を赤らめながら、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ご、ごめんなさい……おじいさま、私が“弘弥くんの家で料理してる”って言ったら、はりきって……」

「……いや、悪いっていうか……ありがたすぎて怖い……」

　こうして我が家は、新たに“野菜の魔窟”と化した。

　——ご近所トラブルではなく、ご近所支援。

　それはある意味、もっと対処が難しい事態だったのかもしれない。

（つづく）