同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二〇四話 再臨の姫君──エレノア・暁・フェリシア・ル・エーデルワイス・リィ、登場

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アニメ化が決定したという報せの余韻がまだ残る中、喫茶店の扉が再び開いた。

 カランカラン、と軽やかなベルの音。

 その音とともに、優雅な足取りで姿を現したのは——

 銀糸のような髪を揺らし、気品あふれる立ち姿の少女。
 紅茶の国の上流貴族を思わせる白いワンピースに身を包み、気品と気迫を兼ね備えた瞳で店内を見渡す。

「ごきげんよう、真壁弘弥様」

「エレノア……!? なんでここに——」

 思わず声が裏返った。

 エレノア・暁・フェリシア・ル・エーデルワイス・リィ。
 かつて短期間、日本の学校に編入していた正真正銘の内親王。
 そして、俺が“高校生として”人生を歩んでいく中で、たった一度だけ深く心を交わした女性——だった。

「スポンサーである以上、経過報告の現場には一度顔を出さねば、と思いまして」

 彼女は微笑みながら、優雅に席に座る。
 氷室プロデューサーと久遠も思わず背筋を伸ばす気迫。

「アニメ化、おめでとうございます。私は、あなたの作品にふさわしい舞台を整えるつもりです。どこまでも、誠実に」

 その言葉に、俺は胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。

「……ありがとう、エレノア殿下」

「エレノアで構いません。もう、そんな距離のある呼び方は寂しいですから」

 彼女の言葉には微かな揺らぎがあった。
 だが、それは“立場”ではなく“個人”としての彼女の本心だった。

 久遠がそっと口元に手を当て、気を利かせるように言った。

「では、今日はこのあたりで。引き続きスケジュール調整は私が行います」

 氷室も深く頷いた。

「姫殿下。映像化における芸術的価値は、全力で担保させていただきます」

 ふたりが退出し、喫茶店のテーブルには、俺とエレノアだけが残された。

 静かに紅茶を注ぎながら、彼女は言った。

「弘弥様。あなたの作品は、世界を変える力を持っています。私がそう信じている限り、それを形にする支援を惜しみません」

 俺は返す言葉を探しながら、ただ彼女の瞳を見つめていた。

 だが——その余韻も、長くは続かなかった。

 店の外から、何やら慌ただしい気配が伝わってきたのだ。

「殿下ぁあああああああっっ!!!」

 高級スーツに身を包んだ男女が数名、駆け込むように店内に現れた。
 そのうちの一人が息を切らせながら叫ぶ。

「殿下、まさか本当に日本に、しかも民間の喫茶店に……っ! 国際会議を抜け出して何を……!」

 エレノアは紅茶のカップを静かに置き、少しだけ肩をすくめて微笑んだ。

「国際問題になるような案件ではありませんわ。単なる私的な立ち寄りです」

「立ち寄りのレベルではございませんっっ!!!」

 おつきのひとりが半泣きになって訴える。

 俺は思わず小さく吹き出してしまった。

「……相変わらず、姫らしくないというか……」

「ふふ……でも、姫である前に“読者”ですわ、私は」

 そう言ってエレノアは椅子から立ち上がり、スカートの裾をつまんで優雅に一礼した。

「また、参ります。次は“姫”としてではなく、“一人の少女”として」

 そして、慌てるおつきたちに両脇を固められながら、まるで風のように喫茶店を後にした。

 残された俺は、呆然としつつも——どこかあたたかな火が灯るような、不思議な気持ちでその背を見送っていた。

(つづく)

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