同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第二一〇話 四月二十八日──真壁弘弥、誕生日騒動

　四月二十八日。
　ゴールデンウイーク直前の金曜日。
　朝からどこか落ち着かない雰囲気が漂っていた。

　教室に入った瞬間——
「おはよっ弘弥くん♡」
「おはようございます、誕生日の主役♡」
「本日、観察対象の生活年数が+1されました」（ひより）
「今日は、特別だよね？」（碧純）

　全員が妙にテンション高めで俺を囲む。

　そう、今日は——俺の誕生日だ。

「え、みんな……覚えてたの？」

「当然でしょ！ 弘弥の記念日なんだから♡」（ルナ）
「ささやかでも、お祝いさせてくださいね」（すみれ）
「プレゼント、三パターン準備済」（ひより）
「私も……ちょっと頑張ってみた」（りあ）
「今日は、あなたのために国から持ってきた贈り物がございます」（イザベラ）
「私も、正式な祝意をもって参加させていただきますわ」（エレノア）

　教室での祝福ラッシュを終え、無事に授業が終わり……。

　俺は、少しだけ疲れた顔で帰路についた。

　玄関の前に立ち、鍵を差し込んで扉を開けると——

「おかえりなさ～いっ、誕生日ボーイ♡」

　玄関から飛び出してきたルナが、クラッカーをパーン！と鳴らす。

　続けて、碧純、すみれ、ひより、りあ、瑠衣……そしてイザベラとエレノアまでもが、リビングに並んでいた。

　バルーンと紙飾りで飾られた室内。
　テーブルの上には色とりどりの料理とケーキ。

　その中心に、みんなが用意した“俺だけの誕生パーティー”が待っていた。

「な……お前ら……本気で……」

「当然でしょ？ 今日という日は、弘弥のためにあるんだから！」（ルナ）
「あなたがいるから、私たちも笑っていられるのですわ」（イザベラ）
「誕生日、おめでとうございます、弘弥様。心よりの祝福を」（エレノア）

　言葉にできない思いが、胸に込み上げた。

　この日、俺は改めて思い知った。

　……俺は、本当に幸せ者だ。

「ま、まじか……ありがとう、みんな……」

「放課後は、そのまま“弘弥誕生祭”ね！」（ルナ）
「場所は……弘弥くんの家で大丈夫でしょうか？」（すみれ）
「準備、各員担当済み。任務完了まで油断は禁物です」（ひより）
「ケーキは私が焼くって決めたから！」（碧純）
「私は……誕生日用のドレス、持ってきた」（りあ）
「プレゼント用の舞を少しだけ……」（イザベラ）
「私は王国式の乾杯をお教えしましょう」（エレノア）

　こんなに大騒ぎになるなんて思わなかった誕生日。
　果たしてこのあと、どんな波乱と笑いと愛情に包まれるのか——

　チャイムが鳴る直前、教室の入り口からそっと顔を覗かせたのは、イザベラだった。

　その後ろからは、エレノアが上品な足取りで歩いてきて、まるで校内の空気が一瞬だけ張り詰めたような錯覚すら覚える。

「失礼いたします。お誕生日おめでとうございます、弘弥様」

　イザベラは丁寧に膝を折り、手に持った小さな包みを差し出す。
　開けると、手作りの菓子と、小さな書きかけの詩が入っていた。

「これは……？」

「貴国の“短歌”という文化に挑戦してみました。未熟ですが……私の心を込めて」

「すごい……ありがとう、イザベラ」

　イザベラの頬がほんのり赤くなる。

「私からは、これを……」

　エレノアは柔らかく微笑みながら、小さな箱を差し出した。
　中には、上品な銀のペンが収まっていた。

「あなたが書き続ける物語が、いつまでも美しくありますように。心からの願いです」

　俺はその瞬間、胸がじんわりと熱くなった。

（こんなに祝ってもらえるなんて……俺、本当に幸せ者だな）

　だがその感傷もつかの間——

「ねえねえ、弘弥くん！ パーティーの準備も始まってるから、放課後は速攻で帰るよ！」（ルナ）
「冷蔵庫、ケーキの材料でパンパンだから早くね！」（碧純）
「誕生日の夜に、全ヒロイン集合は避けられませんわ♡」（瑠衣）
「……この一日、観察対象の幸せ度を全力で上昇させます」（ひより）

　そうして、クラスメイトたちの目の前で、俺の誕生日騒動はますますエスカレートしていく。

　まだ午前の授業すら始まっていないというのに——
　俺の心は、すでに夕方以降のカオスと笑いに震えていた。

（つづく）