同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第二二九話 解き放たれた噂──アニメ化の衝撃、学園に走る！

　ゴールデンウィーク明け。

　俺は久々の登校に重い足取りで門をくぐった。
　連休中に原稿のノルマをどうにかこうにかこなし、旅と夢精と訪問者との修羅場を乗り越えた先で——待っていたのは、現実。

「お、おい真壁！ お前……っ！」

　昇降口をくぐった瞬間、男子たちの注目が一気に集まった。
　廊下の端では女子たちがスマホを片手にざわざわと話している。

「え、なになに？ なにか……俺、またバレた？」

「“また”ってなんだよ！？ 違ぇよ、これ見てみろっ！」

　友人のスマホ画面に映っていたのは、昨夜配信されたニュースサイトのトップ記事だった。

《話題沸騰の学園ハーレムラブコメ、ついにアニメ化！ 作者は現役高校生作家！？》

　しかも写真には、すりガラス越しに映る俺（出演時の姿）と、内親王殿下と並ぶ姿が。

（え、ちょっ……待って！？ なんで写真まで！？！？）

「おま……この“内親王って噂の美人”と……マジで知り合いなのか？」

「……うわっ、マジで……これ、お前じゃん！？ やっば、ちょっとサインしてくれよ！」

　あれよあれよという間に囲まれる俺。

　クラスに入ると、さらに騒然。

「真壁くん、すごいじゃん！」「ほんとにアニメ化！？」「声優とか、決まってるの？」「ヒロインって、誰モデル？」

　俺の机の周りは、まるで記者会見。

「いや……あの、その……仕事の話はちょっと……」

　汗をかきながら苦笑する俺。

　だが、その時。

「はいはい、そこまで。真壁くんが困ってるの見て分からないの？」

　教壇からスッと入ってきた声。

　黒沢先生だ。
　その冷静で厳しい視線に、教室全体がぴしりと凍りつく。

「……真壁くんは、普通の高校生です。皆さんも、学校では“普通の”クラスメートとして接してください」

　黒沢先生はチラッとこちらを見て、わずかに微笑んだ。

　その瞬間、俺の胸の中にあった緊張が、ふっとほどけた。

　でもその休息は長くは続かない。

（だって……このクラス、“普通じゃない”女子が何人もいるんだから）

　後ろの席から視線を感じる。
　すみれ、ルナ、ひより、碧純、りあ、イザベラ。

（……絶対これ、アニメのヒロイン元ネタ誰かって話題、再燃するよな……）

　地獄の予感。
　でも、それと同時に、確かに胸の奥が——少し、誇らしかった。

（俺は、彼女たちと作ってきた物語を……世界に届けるんだ）

　静かに、俺は自分の席に腰を下ろした。
　次のページをめくるように——新たな日常が始まる予感を感じながら。