同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二五二話 「雨とせっけんと、君のにおい」

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──梅雨が、本気を出してきた。

 

朝から晩まで、ずっと雨。
空気は重く、じっとりとまとわりつくような湿度。
洗濯物は乾かず、部屋干しのタオルが俺の顔にチョンチョン当たる。

 

「……湿気すげぇな」

 

真壁家のリビングは、今日もヒロインたちで満員だ。
雨で外に出られず、みんなダラけ気味。
そして──“におい”という禁断ワードが、ついに話題に上る。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「……ちょっと、さ」

 

リビングの角、窓際でバスタオルをたたんでいたのは──

水無瀬すみれ。俺と同じクラスの文芸部員で、お姉さん系同級生ヒロイン。

 

「最近、わたし……におってない? こう……汗っぽいっていうか……」

 

その問いに、一瞬その場の空気が固まった。

 

「べ、べつに……そんなことないって」

 

俺は慌てて言うけど、すみれはすぐに目をそらして笑った。

 

「そっか。……ううん、いいの。ただ、ちょっと気になっちゃって」

「今日、駅の中で汗かいてさ。弘弥くんに“くさっ”って思われたら……やだなって」

 

顔を真っ赤にしながら、小さく肩をすぼめるすみれ。

ラベンダーの香りがふわりと漂ってきて、
そんなこと、1ミリも思わなかった俺の理性がぐらついた。

 

「いや……全然、におわないよ。いつもいい匂いっていうか、すげぇ安心する」

 

「えっ……そ、そう……?」

 

耳まで赤くなるすみれを見ながら、
その隣で何かを察したギャル系ヒロイン・ルナが突然叫んだ。

 

「じゃあさ! あたしのは!? ひろや、くんかくんかしてみなって! ね? 正直に言ってみ?」

 

「なんで突然匂い嗅がせる流れになってんだよッ!!?」

 

「てかギャルはいい匂いしてて当たり前って思われるプレッシャー、やっばいんだからね!?」

 

ルナは自分のTシャツを引っ張って襟元パタパタしてる。
でも、やっぱり南国系の甘いココナッツの香りがして、そっちが逆に罪だった。

 

「……自分で言ってて恥ずかしくないの?」

 

碧純がぼそっと言いながら、自分の袖をくんくん嗅いだ。

 

「お兄、ちょっとこっち来て。確認して」

 

「確認ってなに!? におい審査員かよ俺は!!」

 

「わたし、汗かくと……耳の後ろ、気になるんだよね……」

 

急にしおらしくなる碧純に、俺は心の中で何人目かの天使を葬った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「汗のにおい……気になるのは当然だよ」

 

隣で一ノ瀬ひよりが、メモ帳を取り出してぼそっと言った。

 

「人間の発汗によるにおい物質の割合はね──」

 

「まって! それ以上言うとリアルになるからやめて!!」

 

「大丈夫。弘弥くんは“変態としての耐性”があるから。観察済み」

 

「観察やめてぇぇぇえええ!!」

 

 

──そして、りあ。

黒髪の影から、そっと目を逸らして小声で言う。

 

「……じゃあ……わたしのも……くさい?」

 

「くさくないよ!?!? むしろ、いつもふわっと甘い匂いする!」

 

「……そっか……。ふふ、……よかった……」

 

この子、ガチで不安だったんだ。

そう思った瞬間、背中を掴まれるような感情が込み上げてきた。

 

「ほんとに、みんなに言いたいんだけど」

俺は全員を見渡して、言った。

 

「汗とか、においとか、そういうのも含めて──全部、その人らしくて、俺は好きだよ」

 

「……!」

 

──誰もが、ピタッと動きを止めた。

 

「ひろや……それ、言ったら……」

 

「やばい、こっちが照れる……」

 

「好きって言った……全員に……“好き”って……」

 

「お兄……罪、重すぎない……?」

 

 

◆ ◆ ◆

 

そして、夜。

みんな順番にシャワーを浴びて、
再び俺のキングサイズベッドに集まってくる。

 

「ひろや。今日は真ん中譲ってあげるけど……明日はわたしの番ね?」

「ひろやの“汗の香り”も、観察記録に含まれてるから」

「梅雨でも、わたしは絶対負けないからね♡」

 

──俺の安眠は、しばらく来なさそうだった。

 

でも。

それも、悪くない。

 








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