同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二九四話 「女体山のてっぺんで──お弁当とそれぞれの想い」

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「はあぁぁぁぁ~~~……っ!!」

 誰ともなく、山頂で風を受けながら声を上げた。

 筑波山・女体山頂。
 標高877メートル。

 晴れ渡った空。
 眼下には関東平野がどこまでも広がっている。
 かすかに霞ヶ浦も見える。

 そして吹き抜ける風が、
 登山の疲労と汗をいっきに洗い流していくようだった。

「ねえ見て弘弥、あれ、霞ヶ浦?」

「ほんとに……すごい……」

「観察対象たちの心拍数、安定。
 精神回復率上昇中」

 しばらく全員でその景色を堪能したあと、
 俺たちは少し離れた岩場の日陰で荷物を広げた。

 お弁当タイムだ。

「さあさあ! 今日のために気合い入れて作ったんだからっ!」
 碧純が満面の笑みで、弁当箱を広げる。

 その中には、
 色とりどりの卵焼き、唐揚げ、おにぎり、ウインナー。

「うわっ……すげぇ、これ完全にプロじゃん」

「ふふ、もちろん私も負けてません」
 すみれが取り出したのは、
 美しく詰められた和風の二段重。

「私はフルーツとデザート用意してあるよー!」
 ルナが見せたのは、カットスイカと冷やしゼリー。

「糖質バランス完璧な高栄養バー、持参」
 ひよりは市販の登山補給食を誇らしげに掲げた。

「……食べて。作った」
 りあは、こっそり握ったという一口おにぎりを差し出した。

「私は……豪華なチーズと生ハムのプレート♡」
 イザベラはやはり気品あふれるセレクション。

「で……俺は?」

「食べさせてあげるから、選んで♡」

「お兄が選ばないなら……わたしが最初にっ!!」

「観察対象、選択強制イベント突入」

「弘弥様♡ わたくしのから──どうぞ」

 ──昼食は、予想どおりの争奪戦となった。

 ◆ ◆ ◆

 やがて、お腹も満たされ、
 俺たちは山頂の岩場に寝転がって、空を見上げていた。

 風が気持ちいい。

 どこからか風鈴の音がするような、そんな錯覚すらした。

「……ねえ、弘弥」
 すみれが、静かに口を開いた。

「こういう時間、なんか……ずっと忘れたくないね」

「……うん」

「“普通”って、案外特別なんだなって思う」

 彼女の言葉が、心に残った。

 それは、きっと俺たちが“ここまで登ってきた”からこそ感じられるものだった。
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