同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三八六話 「ことねの涙──配信に映らなかった裏側」

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 ──ことね視点。

 修学旅行なんて、本当は好きじゃなかった。

 友達とわいわい歩くのも、浴衣でキャーキャー言うのも、
「青春っぽい」って理由で笑うのも、全部、どこか自分のものじゃない気がしてた。

 けれど、弘弥くんが行くって聞いた瞬間。
 私は、迷わず荷物を詰めていた。

(……あなたの“物語”に、私も一緒にいたいの)

 その気持ちは、誰にも言わずにスーツケースの奥にしまって――
 そして、裏で“盾”になる覚悟を決めていた。

 ◆ ◆ ◆

 旅館の一室。
 廊下ではヒロインたちの騒がしい笑い声が響いていた。

 私は静かに、スマホの画面を睨んでいた。

【内部告発:人気ラノベ作家Mの正体は○○高校在学の未成年!?】

【未成年作家の裏の素顔と、交際関係の噂──独占インタビュー予告】

(やっぱり……来た)

 出版社には通してない、匿名のリーク情報。
 中身は、弘弥くんのことを直接示すものではない。
 けど、“わかる人にはわかってしまう”内容だった。

 こんなタイミングで、どうして。

 誰が、どうやって。

 そんなことはもう関係なかった。

(止めなきゃ)

 ただそれだけだった。

「……あの、“あの記事”、出さないでください」

 私は、スマホの向こうの企業広報担当に頭を下げていた。

「法的な名誉毀損にもなり得ますし、そもそも未成年相手にここまで過激な報道は……」

「ですが、“事実の指摘”に過ぎない以上、報道の自由という点では……」

「お願いです。
 彼はまだ、“物語”の途中なんです。
 ここで潰されるようなことがあっては、いけないんです……!」

(どうして、こんなに必死になってるんだろう)

 自分で思いながら、心のどこかでわかっていた。

(……弘弥くんを、好きだから)

 でも、それを言葉にする勇気は、まだ持っていなかった。

 ◆ ◆ ◆

 夜の金閣寺。

 あの輝きを見つめていた彼の横顔。
 “すみれさん”と並ぶ姿が、少し遠くに感じたのは……
 私が、まだ“ヒロイン”になりきれていないからだと思った。

 彼を守っているのは私だけじゃない。
 彼に好かれているのも、私だけじゃない。

 でも、誰よりも。
 私は弘弥くんの“物語の読者”で、“最初のファン”でいたかった。

 それが、私の“物語の始まり”だから。

 夜、旅館の自室。
 布団の中で、誰にも気づかれないようにスマホを伏せ、
 私はぽつりと呟いた。

「……私は、あなたの味方でいたいだけなのに」

 涙が一滴、枕に落ちた。

 光の当たらない場所で、誰にも知られないまま流れるその涙を――
 きっと、誰も配信には映してくれない。

 でも、構わない。
 私は、あなたのそばにいる。

 それだけで、もう充分。
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