同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三八七話 「修学旅行最終夜──あゆむ、キス未遂」

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 ──深夜。旅館の部屋。

 布団に横になりながらも、俺の心はまるで落ち着かなかった。

「……はぁ」

 修学旅行の最終夜。
 清水の舞台での告白未遂、奈良でのおむつ事件、ことねの裏側、すみれの震える声。

 いろんな出来事が、脳内を渦巻いていた。

(やっぱり、俺には“ひとり”が一番落ち着く……)

 そう思いながら目を閉じようとした、そのときだった。

 ──カタ。

 ふすまが、音もなく開いた。

「……えっ?」

 影が差し込む。
 月明かりの中に浮かび上がったのは、あゆむだった。

 ◆ ◆ ◆

「あ、あゆむ……?」

 浴衣姿の彼女は、どこか緊張したような、それでいて覚悟を決めたような顔をしていた。

「こんばんは、お兄ちゃん」

「ちょ、今なにして……!」

「シーッ……みんな寝てるよ。
 今日は……どうしても、話したいことがあって」

 そう言って、彼女は俺の隣に静かに座った。

 香るのは、柚子とラベンダーのブレンドされたような香水。
 小さな手が、そっと俺の手に重なった。

「ねえ……弘弥お兄ちゃん、覚えてる?」

「え?」

「昔、海でね……ふたりで遊んだ時のこと。
 わたしが泣いてたら、弘弥が手を握ってくれて、
 “おとなになったら、あゆむとけっこんするー!”って、笑って言ってくれたこと」

「…………」

 あの記憶が、脳裏をかすめた。
 海辺の光景、小さな手、小さな声、確かに言った“未来の約束”。

 でも、それを目の前の少女と結びつけるには、まだ確信が持てなかった。

 それでも――

 あゆむの瞳は、真剣だった。

「……あの時の約束、まだ守ってくれる?」

 彼女の顔が、ぐっと近づいてくる。

「わたし、弘弥が……ずっと好きだったの」

 距離が、数センチに迫ったとき――

 \ガチャッ/

「……ん?」

「……えっ」

 ふすまが、勢いよく開いた。

 そこにいたのは、
 ヒロイン全員。

 碧純、すみれ、ルナ、ひより、ことね、そして……篠宮みつきまで。

 全員が一斉に、俺とあゆむの密着状態を見て――

「……ちょ、近っ!!」
「なに今の!!」
「キスしようとしてたよね!?」
「というか、してたでしょ!? ほぼ!!」
「しかもこの状況、布団の中……!? 夜中にふたりきりって……!」

 空気が、一瞬で氷点下に下がった。

「ち、ちがっ……これは、その……」

「弘弥くん……説明、できる?」

「逃げ場、ないよ? 今回ばかりは」

「“修学旅行最終夜”に、この状況で“無罪”を主張するって……正直、無理があると思うんだけど?」

「夢精よりタチ悪いかもよ……?」

 あゆむが小さく立ち上がる。

「……みんな、どうしてここに?」

「“夜這い対策見回り隊”に決まってんでしょ!!!」

 \\\ 地雷包囲網、完全展開。 ///

 ◆ ◆ ◆

「じゃあ、あゆむちゃんは弘弥のこと、ずっと“お兄ちゃん”って呼んでるけど、実は……?」

「“実妹枠じゃない正妻”狙いって、どんな新ジャンル!?」

「“幼なじみ&修学旅行夜這い&再会キス未遂”って、フルコンボすぎない!?」

「ついに来たな、“修学旅行最大の修羅場”……!」

 俺はというと――

「もうだめだああああああああ!!! おれ、しにたいいいいい!!!」

 布団をかぶって、ゴロンと丸くなっていた。

 誰かが呟く。

「この戦争、絶対、終わらせちゃダメだ」

 こうして、修学旅行最終夜は――
 全員の“本気”がぶつかり合う夜となった。
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