同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
395 / 630

第三八八話 「翌朝の集合写真と、ぎこちない笑顔」

しおりを挟む
 ──朝。
 修学旅行、最終日の朝。

 旅館のロビーには、スーツケースと土産袋と、少しの疲労感。
 そして……昨夜の修羅場の気まずさが、静かに漂っていた。

「……お、おはようございます」

「お、おはよ」

「……」

「おはよう……弘弥くん」

「…………う、うん……お、おはよう……」

 さっきから誰も、俺の目を見ない。

(なんで俺が一番悪いみたいな空気なんだ……あれは……不可抗力……!)

 ◆ ◆ ◆

「はーい! 集合写真撮るよー!」

 担任の明るすぎる声が、場を無理やり温めようとする。
 クラスメイトたちは観光地名物の石段に並び、
 その中で、ヒロインたちは全員――俺のすぐ近くに陣取った。

「……ここ、わたしの横……」

「いいえ、その隣は私です」

「いや、わたしが手ぇつなぐ係でしょ!?」

「観察データ上、並ぶ頻度が高いのは私ですけど?」

「“最初に潜り込んだ”私には、特別席があるはずじゃない?」

「全員落ち着けってばあああああああ!!カメラ回ってんのぉ!!」

 シャッター音。
 全員の表情は、ぎこちない笑顔だった。

 ◆ ◆ ◆

 写真撮影が終わって、バスに乗り込む前。

 土産屋の前で、すみれが小さく息を吸って言った。

「……旅って、いろんなことがあるけど、最後に残るのって“想い出”なんです」

「想い出……」

「どれだけドタバタしても、怒っても、泣いても……
 その中に少しだけ、笑える記憶があれば、意味があると思うの」

 彼女の言葉に、みんなが少しだけ目を伏せた。

(すみれ……やっぱり、強いな……)

「だから弘弥くん。次もまた、何かの想い出を、作らせてね?」

 そう言って、彼女はほんのわずかに微笑んだ。

 ◆ ◆ ◆

 隣にいたことねが、俺の袖を引いた。

「……ね、弘弥くん。次はどこ行く?」

「え?」

「修学旅行じゃなくてもいい。
 日常の中ででも、どこか、二人で旅できる場所……あるかな?」

「……うん。行こう。行きたい、って思ってる」

「……ふふっ。じゃあ、それ、配信で報告するね♡」

「やめてぇぇぇ……!!」

 でも俺の顔も、なんだか少し、笑っていた気がする。

 ◆ ◆ ◆

 そのころ――旅館の裏手。

 誰もいない屋根付きの通路で、あゆむはスマホを手にしていた。

(…………)

『はい、次の段階に入って。彼を囲む環境は、少しずつ制御されつつある』

「ええ、わかってます。
 ……でも、まだ早いです。弘弥お兄ちゃんは、優しすぎるから」

『わかってる。君の判断に任せるよ、“あゆむ”』

「……はい」

 通話を終えた彼女は、ポケットにスマホをしまい――
 もう一度、集合写真のモニターを見つめた。

 全員が笑う中、弘弥の横で誰よりも自然に映っている“自分”を、
 そっと指先でなぞる。

(次は、もっと近くに)

 そう、小さく呟いたその声は、春風に紛れて消えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...