同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三八九話 「帰路の新幹線と、恋の再起動、そして新幹線でうたた寝夢精」

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 ──修学旅行最終日。
 新幹線での帰路。

 荷物を詰め、土産を抱え、肩の力も抜けたはずなのに――
 俺の身には、一切の休息が許されていなかった。

「弘弥くんの隣、わたしよね?」

「いや、今日こそ私だから」

「譲りません」

「公平に、ジャンケンで」

「“夢精回避係”として、今こそわたしがっ……!」

「おむつ係は黙ってていいよ!!」

 ──そう、新幹線の座席争奪戦が開幕していたのだ。

 ◆ ◆ ◆

【座席ポジション争奪・ヒロイン交代制】 という意味不明な制度のもと、
 俺の隣には10~15分おきにヒロインが入れ替わる地獄の構図が完成した。

「ねえ弘弥、私のこと、もうちょっと女の子として意識してくれてもいいんだよ?」

「ほら、手、貸してあげよっか? ね、ちょっと握ってみてよ」

「この前の“夢精”の時の話、まだしてなかったよね……ふふふ……」

「弘弥くん、目逸らした。はい、赤面記録っと」

「私は黙ってそっと横にいるから、安心して……ふふ……」

(なんなんだこの車両……!! 落ち着ける隙間ゼロじゃん!!)

 ◆ ◆ ◆

 途中の乗り換え駅、最後の1時間──
 “ラスト枠”に抜擢されたのは、あゆむだった。

「……静かになったね、お兄ちゃん」

「う、うん。やっと、ようやくって感じだ……」

「疲れたなら、少し寝てもいいよ? わたし、見ててあげるから」

「……ありがとう」

 彼女の肩にもたれかかるように、俺は静かに目を閉じた。

 ◆ ◆ ◆

 ──うとうと。

 列車の揺れと、旅の疲れと、あゆむの体温。

 全部が溶け合うような心地よさの中で、
 俺はほんの数分、眠りの淵に落ちていった。

(……海……?)

 夢の中には、幼い日の海岸があった。

 小さな手。波打ち際の笑い声。
 そして、“将来結婚するんだ”と笑いかけた、あの約束。

(あれは……)

 ──ぬるり。

 現実の中で、何かが起きていた。

(……あ、あれ……まさか……)

 目覚めと同時に、腰から下に広がる生温かい感触。

「う、うわっ……!!!」

 慌てて身を起こし、膝の上のカーディガンをめくった瞬間――

 \\\ うたた寝夢精、発生 ///

「まじかあああああああああああ!!!!」

「……ふふ。やっぱり、今日も“出ちゃった”ね」

 隣のあゆむが、微笑んでいた。
 その手は、俺の手を包むように握っていた。

「あのときも、こうして握ってくれたよね。
 だから、今日もちゃんと届いた。弘弥お兄ちゃんの想い」

 その体温は、昔と同じ。
 俺の心に刻まれていた“最初の約束”と、確かに重なっていた。

 ◆ ◆ ◆

 東京駅到着。

「さて、“夢精した男の子”をお家に帰しましょうか♡」

「最後の最後でオチつけたの凄いよね」

「尊厳……もう残ってないよね」

「私はむしろ誇っていいと思う」

「いや誰も褒めてないから!?」

 笑いながら並んで歩く彼女たちの後ろで、
 俺は今日も、ひとつの決意を噛みしめていた。

(……青春って、なんでこうなるの……)
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