同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三九一話 「“夢精小説”が、まさかの文壇デビュー」

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 ──修学旅行から帰って、俺は完全に燃え尽きていた。

 恋と青春と、過剰なヒロインアタックと、
 予想を超えた夢精の数々。

 まるで嵐のような三日間だった。

 部屋に戻り、布団に倒れ込んだ俺は、天井を見上げながら呟いた。

「……このままじゃ、終われないな……」

 そう。
 終わらせるには、物語にするしかない。

 ◆ ◆ ◆

 キーボードを叩く音だけが響く深夜の部屋。

 いつもは“萌え”や“ラッキースケベ”を主軸に展開を組み立てる俺が、
 このときばかりは、自然と違う筆致になっていた。

 旅の情景。
 胸に残った言葉たち。
 誰かの涙、誰かの笑顔。
 そして、夜の静寂の中で起きた“アレ”までも――すべてを。

 書き終わった原稿のタイトルは、
 ただの冗談のつもりでつけた。

『修学旅行は恋と夢精でできている。』

(……タイトルはあとで変えればいいや)

 そう、軽い気持ちだったんだ。あのときは。

 ◆ ◆ ◆

 そして翌日。
 俺は、担当編集・久遠美月にその原稿を送った。

 すると――

 その夜、彼女から即電話がかかってきた。

『……今、話せる?』

「え? あっ、うん……どうだった?」

 電話の向こうの美月さんは、
 何かをこらえるように、鼻をすする音を立てていた。

『これ……ライトノベルっていうか……』

「?」

『……純文学として出しましょう』

「は?」

 ◆ ◆ ◆

 翌日、編集部。

「いやいやいや、美月さん!? 冗談ですよね!? 純文学とか無理無理無理無理!!」

「冗談なわけないでしょ。わたし、本気で泣いたんだから」

「泣く!?」

「泣いたわよ……特に……“旅館の布団に広がる青春の残滓”のくだり……!
 夢精をこんなに切なく、真摯に描ける作家がこの国にいると思わなかった……!」

「それ褒めてる!? いや……褒めてるのか……?」

「新設された文芸レーベル“令文社(れいぶんしゃ)”から出しましょう。
 装丁も本文組も本気でいくわよ。帯コメント、あの芥川賞作家・××先生に依頼中」

「えええええええええええ!!???」

 ◆ ◆ ◆

 その日の夕方。

 俺は出版社の会議室で、プロデューサー陣から真顔で言われた。

「君の“夢精描写”には、人生がある」

「“不意にあふれる感情”が、すごく生々しい。これぞ文学」

「夢精文学って、新ジャンルを開拓してくれたんだよ、君は」

「やめて!そのパワーワード連呼やめてぇぇぇぇぇ!!!」

 ◆ ◆ ◆

 ──数日後。

 俺のTwitterアカウントに、通知が溢れた。

【“夢精小説”、まさかの純文学デビュー】
【高校生作家、修学旅行体験をもとに書いたデビュー作が文壇で話題に】
【夢精で泣いた……“性と文学”の交差点を描いた一作】
【恋と性と…そして布団に残された痕跡、青春を濡らす文芸作品】

(な、なんで……なんで、バズってるの!?!?)

 ◆ ◆ ◆

 数日後。
 俺の部屋には、段ボールに詰まった初版1000部の見本誌が届いた。

『修学旅行は恋と夢精でできている。』
 著:真壁弘弥
 ジャンル:現代青春文学

 そして帯には、こう書かれていた。

「こんなにも愛おしい、“夜のしるし”を描いた小説は読んだことがない。」
 ――芥川賞作家・朝比奈響子

 俺は頭を抱えた。

「これ……俺の作家人生、どこに向かってるんだ……」

 でも――
 そんな俺の顔を見て、ヒロインたちは口を揃えて言った。

「でも弘弥くん、“本気で書いた”でしょ? なら、誇っていいと思うよ」

 ──そして、次なる騒動へ。
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