同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四二二話 「俳優アレックス・ケインとの出会い──神はいた」

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 ──神は、いた。

 控え室の扉が開き、ゆっくりと姿を現した男。
 背は高く、鋭い眼光。
 気取らず、しかし圧倒的な存在感を纏って。

 俺は、呼吸を忘れていた。

「……アレックス・ケイン……だ……!」

 小学生の頃から映画雑誌で見続けた名前。
 中学時代に初めて買ったBlu-ray。
 高校になって、脚本ノートの隅に書き殴った彼の名。

 その本人が、今、俺の目の前に立っている。

 そして、彼は静かに言った。

「君が……僕の演じる、“あの夜の少年”か」

 ──終わった。

 俺の尊厳と青春、ここに完封された。

「は、はじめまして!!
 光栄です!! ぼ、僕は、その……!」

「真壁弘弥さんだね。君の書いた物語、読ませてもらったよ」

 そう言って、ケインは微笑んだ。
 その表情は、映画の中で何百回と見た“魂の微笑み”そのものだった。

「夢精によって強くなる……というより、“何かに想いを馳せることで、心が成長する”──そういう意味合いなんだろ?」

「……っ! そ、そうなんです!!」

「脚本に反映させておいた。演技、誤魔化す気はないよ。俺の演技は、本気で“夜”を生きるから」

(アレックス・ケインって、神だったんだ……)

 その直後、隣の部屋で開かれた脚本打ち合わせ。

 監督、脚本家、プロデューサーが揃い踏みの場で、俺は軽く頭を下げた。

「ええと、今回は私の原作を……」

「いや~、最高の題材をありがとう! 真壁くん!」

「“異世界に飛ばされた夢精少年が、パンツから武器を召喚して魔王を討伐する”──この設定、斬新すぎて震えましたよ!」

「…………は?」

「タイトルも仮で“Wet Dream Warriors: The Awakening”で進めてます!」

「はあああああああああああああああああああ!?」

「戦闘型夢精勇者!?!?!?」

「パンツ召喚!?!?!?!?」

「ちょっと待って!?文学どこ行ったの!? 弘弥くんの“想い”どこ行ったの!?!?」

 会議室の隅でヒロインたちが次々と立ち上がり、騒然とする。

「なにそれ!? 異世界に飛んでからが本編ってこと!?!?」

「ギャル枠ヒロイン、謎の露出多め魔法少女になってるんだけど!? 完全に私!!」

「ねぇ、“夜の発動儀式”ってどういう演出!?」

 さらに混乱の極みが押し寄せる。

「ちなみにヒロイン役はまだキャスト未定なので、現地オーディションやってます」

「……ほぉん」

 碧純、ルナ、すみれ、ことね、りあ、あゆむ──
 全員が、同時に立ち上がった。

「それ、参加できるんですか?」

「むしろさせてください」

「弘弥の“夜の想い”は、私たちが演じるべきです!」

「VTuberなのにオーディション通過しちゃったらどうしよう……(照)」

「一番“想い”を知ってるのは私たちだもんね?♡」

 数時間後。

 オーディション会場に現れたのは、
 華やかなドレス、制服コス、果ては巫女装束まで。

 完全に戦争だった。

 そして、俺は控え室の隅でひとり、頭を抱えていた。

(……世界、ちょっと……間違った方向に向かってない……?)

 だが。

 心のどこかで、燃えた。

(それでも、俺の物語が、“誰かの心に届いた”のなら……)

(たとえそれが……夢精でもッ!!)

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