同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四三五話「恋と性と童貞の、その先へ──新章、本格始動」

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 ──朝。

 窓の外には、鳥のさえずり。
 旅館の障子越しに差し込む陽が、俺のノートパソコンを照らしていた。

 温泉合宿、最終日。
 長かったようで、一瞬だった三日間。
 ヒロインたちとの“恋と戦いと睡眠妨害”の連続。

 だが、今――俺はようやく、ペンを握れていた。

「……いける。書ける」

 深呼吸ひとつ。
 キーボードの前で、ゆっくりと目を閉じる。

(逃げてばかりだった。けど、そろそろ書かなくちゃいけない)

 これは、俺の物語。
 俺自身の“最初”を描く、人生で最もリアルなフィクション。

 俺は、執筆を始めた。

【新連載原稿・冒頭】
『僕はまだ、誰の中にも入ったことがない。
 だけど、心の中には、もう君が住んでいる。』

「…………」

 ノートPCを覗き込んだ編集者・久遠美月が、無言で眼鏡を押し上げた。

「はぁぁぁぁぁ~~!? 何それ、詩かよ!!」

 叫んだのは、白神ルナだった。

「……ねぇ、それ、私のこと思いながら書いたでしょ?」

「え、なにその確信」

「ふふ……あの一文、優しいのに……すっごく、エロい」
 水無瀬すみれが頬を染める。

「ちょ、みんな……ただの導入文だから……!」

「“入ってないけど心に住んでる”って、それ、未遂と両思いのハイブリッドじゃん!」

 碧純は真っ赤になって、タオルを被って顔を隠した。

「……ひとこと、“ずるい”って言わせて?」

 ──ヒロインたちの反応は、予想を超えていた。

 ことねはすでにスマホを握りしめ、口元をにやつかせながら呟いた。

「今夜の配信タイトル決定。“童貞文学、愛の幕開け”」

「やめてくれぇぇえええ!」

「……でも、弘弥。あんた、やっと書いたんだね」

 そう言ったのは、編集者の久遠美月。

 彼女は立ち上がり、背中越しにぽつりと呟いた。

「“恋と性と童貞”。この三つを、本気で書ける人間が、どれだけいると思う?」

「……俺は……ずっと逃げてた。
 誰の手も取れなかったし、踏み込む勇気もなかった」

「ううん。それでも、“踏み込むことを恐れてる自分”すら、ちゃんと書こうとしてる」

 美月は、微笑んだ。

「それって、きっと、もう“物語の入り口”にいるってことだよ」

 その言葉に、俺はゆっくりと頷いた。

 夕方。旅館のロビーに集まった全員。
 荷物をまとめ、そろそろ帰路へつく時間。

 だが、誰もが名残惜しそうだった。

 すみれは、文庫本サイズに印刷された俺の冒頭原稿を手に、ぎゅっと抱きしめていた。

 ルナはスマホに感想を打ちながら、「早くこの先読ませろ~」と唸っていた。

 ことねは、もう読み上げ用のBGMを作り始めている。

 あゆむは俺にべったりくっついて、「“最初”って、何回までOKなんでしたっけ?」と意味深な微笑。

 りあは……俺の肩越しに原稿をのぞき込んで、「これが“わたしとの未来”じゃなかったら、ちょっと……燃やすかも」と囁いた。

「……お前ら、怖いからな」

「ふふっ、弘弥くん。“誰の中にも入ってない”ってことは……まだ、可能性は全員にあるってことだもんね♡」

 碧純の言葉に、ヒロインたちがどっと騒ぎ出した。

(けど、俺はもう知ってる)

 この物語は、“誰と結ばれるか”じゃなくて、
 “誰の想いに向き合えるか”で決まるんだ──。

 旅館のバスに揺られながら、俺はふと呟いた。

「恋と性と童貞の、その先に……俺は何を描きたい?」

 答えは、まだ出ていない。

 けれど――

(きっとその先に、“本当に愛せる誰か”がいる気がする)

「さぁ、帰ろう。
 新しい物語は、ここから始まるんだ」
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