同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第四四八話 「そして、素足で踏み出す──次なる一歩へ」

　──都内某所、書店。
　フェア棚に、異様な熱気が宿っていた。

【青春×香り──五感で読む恋の物語】

『香る恋、靴下の向こうに』
　帯にはこう書かれていた。

　“匂いは、記憶と繋がっている。
　だからこそ──恋は、足元から始まる。”

　この一冊が、いま日本中の若者たちにバズっていた。

　◆　◆　◆

「すごいですね……“Footstep Romance”って英訳されてる……」

　ことねが呟く。
　自宅のリビング。翻訳版の見本誌が、丁寧にシュリンクされたまま置かれていた。

「“Footstep”って、“歩み”って意味もあるのか……」

　弘弥は、それを手に取りながら、目を細める。

「変態ど真ん中から始まったのにね」
　すみれが、紅茶を差し出して微笑む。

「文学って怖いね～。あたしの靴下、文化遺産みたいに語られてんだけど？」
　ルナはスカートのすそをばさっとなびかせて座る。

「……でも、いい話だったと思います」
　あゆむはポツリと、素直な言葉を口にした。

「私は、足じゃなくて……心で触れたかったな」
　りあが目を伏せてつぶやいた。

「けど、これで決まりだね」
　碧純が、勝ち誇ったように腕を組んだ。

「……私の白ソックスが、最強だったってこと♡」

「自分で言うなあああああああああ！！！」
　弘弥、全力ツッコミ。

　◆　◆　◆

　その夜。

　弘弥は一人、ベランダに出た。
　秋の風がやわらかく頬を撫でる。

　月明かりの下で、ふと彼は呟いた。

「……次は、どんな物語を書こうかな」

　思い浮かんだのは、“香水”。

　匂いの記憶、残り香、すれ違いざまの一瞬。

「香水をテーマにした恋の話……悪くないかもな……」

　その時だった。

「香水！？ ちょっと弘弥、それやるなら“パンスト”が先でしょ！」

「ブラ！ブラジャーが先！」

「タイツも捨てがたいよね！」

「いやいや、まずは“洗いたてのパーカー”だって言ったじゃん！」

「なんで次回作、ラノベ界最大のフェチ総選挙になってんだよおおおお！！」

　◆　◆　◆

　久遠美月がリビングで仁王立ち。

「決まりね。“ブラジャーと恋”よ。次のテーマはそれ。異論は認めません」

「いやあああああああああ！！！！」

　だが──筆は、止まらない。

　恋と変態と童貞と。

　そんな青春の全てを愛する作家・真壁弘弥の物語は、まだまだ続く。