同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四四七話 「香りは消えても、気持ちは残る」

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 ──静かな午後だった。
 窓から差し込む陽光が、机の上の原稿用紙をふわりと照らしていた。

 俺は最後の一文を打ち込む指を止め、静かに深呼吸した。

『香る恋、靴下の向こうに』──。
 これが、俺の新しい物語のタイトル。

 エンタメでもフェチでも、ただのネタでもない。
 これは俺が……本気で“誰か”を想って書いた物語だった。

「……よし」

 エンターキーを、そっと叩く。
 印刷機の唸りが、小さく部屋に響いた。

 ◆ ◆ ◆

「提出、お疲れさま」

 編集者の久遠美月がやって来た。
 相変わらずロリ顔に似合わないエグい判断力で業界を支配してる女神(悪魔)である。

「最初、“靴下の匂いで恋を描く”とか言い出したときは……ねぇ?」

「俺だって恥ずかしかったよ……!」

「でも、最後のあのシーン──」

 彼女は、印刷されたラストページを指先で軽くトントンと叩く。

 “少女は、脱いだ靴下をそっと脇に置いた。
 その素足が、まるでこの世界でいちばん清らかなもののように、
 少年の手の甲に触れた。
『……ねえ。もう、香りじゃなくていいよ。私、今ここにいるから』”

「……変態から始まって、ここまでピュアにするとは……やるじゃない、童貞作家」

「いやその呼び方やめて!?」

「だって事実でしょ?」

 ◆ ◆ ◆

 ──夜。

 完成原稿を提出した後、俺は気分転換のつもりで、近所の土手に来ていた。
 心地いい夜風が、髪を撫でていく。

(香りって、不思議だな)

 一瞬で過去を思い出させてくれたり、
 言葉じゃない“何か”を、ちゃんと届けてくれたりする。

(あのとき……俺を救ってくれた靴下の香りは──)

「……弘弥くん」

 声がした。

 振り向くと、そこにはあの“告白”のヒロインが立っていた。
 誰なのかは……まだ、伏せておこう。読者投票もあるからな。

「さっき読んだよ。……新作」

「うん」

「……あれ、私のこと、だよね?」

 俺は、少しだけ笑って──そして、頷いた。

「ありがとう。あのときも、今も」

 風の中で、ふたりの影が重なった。

 ◆ ◆ ◆

 後日。

 本が書店に並ぶと、SNSは再びざわついた。

【#香る恋靴下の向こうに】 【#変態純愛】 【#童貞作家の進化】

 でも、俺はもう動じない。

 “匂いの向こう側”にある本当の想いを、
 俺はちゃんと伝えられたから。

 そして今日も俺は、
 新しい物語の匂いを探しに、キーボードに指を伸ばす。

 ──物語は、まだ終わらない。
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