同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四四六話 「“初恋の靴下”の正体──真夜中の告白」

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 ──夜の旅館の裏庭。
 秋の虫の音が風に揺れて、小さな石畳の上を影がひとつ、もうひとつ。

「……寒くない?」

「ううん、ちょうどいいくらい。……弘弥くんと一緒にいるから」

 月の光が照らすその場所に、俺は彼女と二人きりで立っていた。

 白い息を吐きながら、ふたり並んで。

 それは偶然のようで、どこか必然だった。

「……弘弥くん。あのね」

 彼女は言葉を切り、そっとポケットから布を取り出した。

「これ、覚えてる?」

 それは──淡い桜色の、くたびれた靴下だった。

「……これって、もしかして……」

「うん。中学のとき……あなたの靴箱に、こっそり入れたの、私」

 心臓が、ドクンと跳ねた。

「当時、弘弥くんが、毎日うつむいて通ってるの、気付いてた」

「でも……どうしても声をかけられなかったから。せめて何か、って思って……」

「……“足元を支える”ものなら、私でもできるかなって……」

 彼女の声は震えていた。

「恥ずかしかった。変だって思われるかもって……ずっと、言えなかった」

「でも、あれから弘弥くんが変わっていったの、ちゃんと見てた」

「だから今なら、言ってもいいかなって、思ったの」

 彼女は、靴下を胸元に抱いたまま、ゆっくりと俺の目を見る。

「弘弥くん、私ね──」

「……ずっと、ずっと、好きだったんだよ」

 風が止まり、世界が静かになった。

 俺の中で、バラバラだった“想い”が、一つに重なる。

 ──あの頃、救ってくれたのは、
 匂いでも、布でもなく、
 **“誰かの優しさ”**だったんだ。

「……ありがとう」

 俺は、彼女の手を取った。

「本当に、ありがとう。……救ってくれて」

 手の温もりが、胸に広がる。

 まるで、**“初恋の続き”**が、今ここで始まったみたいだった。

 ◆ ◆ ◆

 その夜、俺は再び原稿に向かった。

『青春と靴下と僕の罪』
 その第十章に、こんな一文を書き加える。

『誰かのために脱いだ靴下が、
 誰かの心を救うこともあるんだ。』

 そして物語は、新しい“恋”へと、歩き出す──。

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