同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四五三話 「ブラフェチ文学少年と呼ばれて」

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 ──もう後戻りは、できないのかもしれない。

「……“ブラジャー”がテーマなんて、ふざけてるって思われるだろうな……」

 それが、素直な気持ちだった。

 けれど。

「新時代の官能と純愛の交差点──“ブラフェチ文学少年”真壁弘弥」

 今、新聞に掲載されていた見出しは、まさにそれだった。

 ◆ ◆ ◆

「え? なにこれ!? 全国紙!? マジで新聞に出てるじゃん!」

 ルナがスマホ片手に部屋を飛び込んでくる。

「ほらこれ、“文学界の新星・真壁弘弥、次作は下着に宿る恋の機微”って書かれてる! すごっ!」

「見出しに“機微”って……エロを詩的にしすぎでしょ……」

 俺は頭を抱えた。

 新聞だけじゃない。 ネット記事、文化系カルチャー誌、トークバラエティ……あらゆるメディアが、俺の「次の一作」に興味を示していた。

 それもこれも──

「“ブラジャーは恋の構造だ”発言で一躍注目を浴びた高校生作家」

 ことねのあの配信が原因だった。

 ◆ ◆ ◆

 ──数日前。

 ことねのライブ配信中、うっかり俺の新作構想ノートを読み上げてしまった。

「ブラジャーは恋と同じ。支えながらも、包み込み、整えるもの」

「……わたし、今、すっごくドキドキしてるの、なんでだろう……」

【#支え愛論】というタグが即誕生し、SNSでトレンド1位を獲得。

「これぞ令和の恋文」「補整下着文学」「ブラで語る青春の形」など、まるでジャンルそのものを創出してしまったような騒ぎになった。

「弘弥くん……これ、止まらない流れだよ。どうする?」

 すみれが真顔で問いかけてくる。

「どうするって言われても……もう止まらないよね……」

「やっぱり書くしかないね。“ブラジャーをめぐる群像劇”」

 ことねはそう言って、軽く微笑んだ。

「でも弘弥くんがそれを書くなら、わたし、安心して任せられるよ」

「……なんで?」

「だってあなたは、“胸”だけを見ない人でしょ?“支えてるもの”をちゃんと見てくれる人だから」

 ◆ ◆ ◆

 そしてその夜──

 俺は偶然、テレビをつけたままにしていた。

 バラエティ番組で、ことねがゲスト出演していたのだ。

「今回のテーマは“恋とブラジャー”らしいですけど……ことねさん、どんな風に受け止めましたか?」

 司会の女性がそう尋ねた。

「そうですね。弘弥くんの作品って、確かにちょっと過激なテーマもありますけど……」

 ことねは一拍、間を置いてから、こう言った。

「でも、彼は“ブラジャーと恋の架け橋を描いた男”なんです」

 スタジオ中が、一瞬で静まり返った。

「“身体に触れる前に、心に触れる”。そんな人が書くからこそ、読者は安心してページを開けるんです」

 そして、彼女は優しく微笑んだ。

「……私はそう思っています」

 ◆ ◆ ◆

 その言葉を聞いて。

 俺は思わず、原稿に向かっていた指を止めてしまった。

(俺は……本当に、そういう風に見られてるんだろうか)

 正直、恥ずかしさや照れの方が先に来る。 だけど、それでも──

 ことねや、みんなの想いを、裏切りたくない。

(だったら……ちゃんと書こう)

『支えられることで、立ち上がれる恋がある。
 包み込まれることで、涙が止まる恋がある。
 そんな“恋の構造”が、君の胸の中にもあったなら──』

 俺はまた、ひとつ“物語の入口”を見つけた気がした。
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