同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四七二話『混浴露天、その向こう側』

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 俺は、濡れた館内着のまま脱衣所でひと息ついていた。

 全身の神経が、まだ冷水に沈んでいた感覚を引きずっている。
 そしてそれ以上に、ヒロインたちの熱視線と順番制圧迫の記憶が色濃く残っていた。

 整うどころか、整いの概念が壊れた水風呂事件。

 せめて今度こそ、本当にひとりになりたかった。

 俺はロビーに戻り、ふと壁に掲示されていた案内板に目を向けた。

『本日、露天エリア・岩湯ゾーンは男女混浴可(要水着)』

 ……混浴。

 文字を見た瞬間、嫌な予感がした。

 だが、すでに俺の心は疲労で限界だった。

「露天なら……さすがに誰もいない……はず……」

 俺はフロントで使い捨てのレンタル水着を借り、
 フラフラと露天エリアへと足を運んだ。

 そこには湯けむりに包まれた静かな空間が広がっていた。

 風が気持ちいい。
 木造の風呂縁に腰かけ、足だけ湯に浸ける。
 薄曇りの空に、少し春の香りが混じっていた。

「……やっと、癒される……」

 ぼそっと呟いたその時だった。

 チャプ。

 背後から水音がした。

「お待たせ~~♥」

 俺は反射的に振り返った。

 次の瞬間、思考が止まる。

「っっっっっっ!?」

 そこにいたのは、
 白いビキニにピンクのパーカーを羽織ったルナだった。
 肩から濡れた髪を垂らし、笑顔で湯へ足を入れてくる。

「いやいやいやいや!? なんで水着!?!??」

 その声に反応したかのように、次々と現れる少女たち。

 すみれ──黒のハイウエスト風ワンピースタイプ。
 ひより──スポーティなホワイトラインの競泳型。
 碧純──控えめながらもリボンのついたフリル付き。
 ことね──……レース素材の異様に神秘的な黒。

 全員、見事に水着姿。

 全員、見事に俺の前に立ち尽くしていた。

「お、お前ら……なぜ水着まで持ってるんだ……!」

 俺の問いに、すみれが涼しい顔で返す。

「来る予感がしたからです」

「完全にバレてたあああああ!!!」

「だってさ~、弘弥っていつも“孤独求める系男子”のくせに、
 絶対“誰か来てくれる”って期待してる顔してるんだもん」

 ルナが俺の横に座り、ぱしゃっと水をはねさせる。

「そういうとこ、嫌いじゃないよ」

 何が嫌いじゃないんだよ。

「私たち、全員“事前に調査”してました」

 ひよりがノートを掲げる。

「あなたの“疲労限界ライン”を予測して、最適な癒やしタイミングを算出。
 結果、今日・この時間・この施設という結論に達しました」

「怖い! 研究者怖い!!」

「……私は、信仰として着ている」

 ことねが、濡れたレースの水着を意味深に撫でながら囁く。

「この黒は、魂の儀式用」

「海とかプールじゃないんだから! 儀式しないで!!」

 気づけば俺は完全に取り囲まれていた。

 五人のヒロインたち、それぞれが水面に足を浮かべながら俺の方を見ていた。
 いや、見てるだけじゃない。

 圧をかけてくる。

 「弘弥、どの水着が一番好き?」
 ルナが爆弾を投下。

「え、そ、そんなの……全部……」

「じゃあ、逆に聞くけど」

 碧純がジト目で迫ってくる。

「“一緒に混浴したくない水着”は?」

「地雷原すぎるだろおおお!!」

 俺はもう限界だった。
 タオルを顔に押し付けて、湯の中に沈みそうになる。

 その時。

「弘弥」

 すみれの声が、ふわっと降ってきた。

「癒やしって、きっと“誰といるか”なのよね」

 その言葉に、全員の視線が柔らかく変わった。

 水音だけが響く空間。

 ふと見上げれば、湯気の向こうに春の空。

「……ありがとな」

 俺はそう言った。

 誰に向けてでもなく、でも全員に向けて。

 ただし。

「でも、次はマジで一人で来るからな……!」

 全員:「はーーい♥(棒)」

 俺の癒やしは、どこへ行ったのだろう。
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