同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四七四話『それでも、癒しが欲しかった』

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 俺は、限界だった。

 混浴、混線、混乱、水風呂地獄、湯上がり椅子争奪戦……
 癒やしを求めてきたこの場所で、なぜここまで心が削られるのか理解できない。

 館内のリクライニングエリア。
 今、俺はリクライニングチェアに座ったまま、タオルを顔に押し付けて深く深く溜め息をついていた。

 周囲にはヒロインたちがいる。
 それぞれローブ姿で、汗を拭いながら、じっとこちらを見守っていた。

 静かな空間に、心拍数だけがやけに響く。

 もう、いいんだ。
 かっこ悪くても、情けなくても、プライドなんて要らない。

 俺は、湯気の中で、絞り出すように呟いた。

「……誰でもいいから……今日は優しくしてくれ……」

 一瞬、空気が震えた気がした。

 次の瞬間だった。

 俺の目の前に、次々と差し出される手、手、手──

「いいよ、弘弥。あたしでよければ、ギュってしてあげる」

 ルナ。

「もちろん。私の膝枕も、空いてるわ」

 すみれ。

「皮膚接触には、リラックス効果ありますから。データ的にも」

 ひより。

「べ、別に……しょうがないから! 兄なんだから、甘えさせてやるだけだし!」

 碧純。

「布よりも、肉体のぬくもりこそ、魂の浄化──」

 ことね。

 全員が、俺に向かって、温もりを差し出していた。

 俺は、その光景に、思わず笑ってしまった。
 嬉しさと、情けなさと、どうしようもない安堵感に、胸が熱くなった。

 こんなにも、俺は守られていたんだな。
 こんなにも、必要とされていたんだな。

「……ありがとう」

 俺は、そう言いながら、そっと一番近くの手を取った。

 誰の手かは、もう、分からなかった。

 ただ、柔らかくて、あたたかくて。

 それだけで十分だった。

 そのまま、リクライニングチェアに身体を預ける。

 誰かがそっとタオルをかけてくれた。
 誰かが優しく髪を撫でてくれた。
 誰かが「大丈夫だよ」と囁いてくれた。

 湯気の向こう、ほんのり香る湯の香りと、優しい手の温もり。

 俺は、やっと、癒やされた気がした。

 だけど。

「……だからって、混浴でそれ言う!? バカ!!」

 碧純の拳が、俺の額にコツンと落ちた。

「いったぁぁぁぁ!!」

「バカバカバカ! ちょっとは場所考えろよ! 変態か!!」

 真っ赤な顔で怒鳴る碧純に、周囲のヒロインたちは笑いを堪えきれずにいた。

「でもまあ……かわいいとこあるじゃん、弘弥」

 ルナが肩をすくめる。

「そうね。素直な男の子、嫌いじゃないわ」

 すみれが微笑む。

「観察対象:癒やされ方、非常に素直。好評価」

 ひよりがノートにメモする音が、妙に心地よかった。

「癒やしとは、肉体と魂の共鳴。……満点」

 ことねが、なぜか合掌していた。

 俺は、額をさすりながら、思った。

 たぶん、こんな日があっても、いいのかもしれない。

 癒やしは、きっと完璧な静寂だけじゃない。
 ドタバタして、傷ついて、笑って、泣いて。
 その全部を含めて、癒やしなんだ。

 俺たちの、日常なんだ。

 そう、思えた。
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