同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四九〇話『誰と手を繋いで帰る?』

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 朝の鳴子温泉街は、すがすがしい空気に満ちていた。

 昨夜のドタバタ騒動をなんとか乗り越え、

 俺たちは早起きして、温泉街を散策することにした。

 浴衣姿に薄手の羽織を重ね、手には小さな紙袋。

 川沿いに続く石畳の道を、俺たちは並んで歩いた。

 湯けむりが立ち上る源泉の煙突からは、ほのかな硫黄の匂いが漂う。

 レトロな商店街の軒先には、手作りの饅頭や民芸品が並び、
 時折、湯気を立てる温泉卵の店も見かけた。

「うわぁ~、このストラップ可愛い!」

 ルナが一つの土産屋に駆け寄る。

「この温泉まんじゅう、職人手作りらしいよ」
 すみれがパンフレットを読み上げ、

「……観察対象、買い物欲、急上昇」
 ひよりが記録を続け、

「黄金の土産、運命の品選び……」
 ことねがまた呪文のような言葉を呟いた。

「兄、これ買って! あとこれも!!」
 碧純は、両手いっぱいにグッズを抱えて俺に詰め寄ってきた。

「わかったから、落ち着け!」

 俺は苦笑しながら財布を取り出し、
 みんなで温泉まんじゅうやら、箸やら、絵葉書やらを次々に買っていった。

 そんな和やかなムードの中で──

「ねぇ、弘弥」

 ルナが、不意にいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。

「この中でさぁ、誰と手を繋いで歩きたい?」

 その言葉に、場の空気がピタリと止まった。

「へ?」

 俺は間抜けな声を出して固まった。

「い、いいじゃん、せっかくだし!」
 ルナが押し切る。

「……そ、そうだね、記念だし」
 すみれが微笑み、

「観察対象、選択行動強制」
 ひよりが無表情で記録。

「兄、当然、私だよね……?」
 碧純が圧をかけてくる。

「運命の交錯、手の契り──」
 ことねの謎ポエムはもう誰も止められない。

 ミレーヌは、顔を真っ赤にして、
 そわそわと視線を泳がせていた。

 ──選べと?

 この爆弾処理班でも無理なシチュエーションで?

 俺は、脂汗を滲ませながら、必死に考えた。

(ここで誰かを選んだら、他の子が……!)

(でも選ばないと、もっと空気が悪くなる……!)

 パニック寸前の俺の脳内。

 その時だった。

 ふと、隣にいたミレーヌが、

 おそるおそる、小さな手を伸ばしてきた。

 その手は、震えていて。
 けれど、精一杯の勇気で、俺に触れようとしていた。

 無意識に──

 俺は、彼女の手を、そっと取った。

 ミレーヌの手は、驚くほど温かかった。

 そして、ぎゅっと握り返された。

 顔を見合わせると、ミレーヌは恥ずかしそうに、けれど確かに、微笑んでいた。

 その瞬間、

「……あ」

 周囲から、冷たい殺気が溢れ出した。

「「「「あああああああああ!!」」」」

 ルナ、碧純、すみれ、ひより、ことね、全員が、

 剣呑なオーラを纏って俺を睨んでいた。

 地雷、全爆破である。

 俺は、汗をダラダラ流しながら、ミレーヌと手を繋いだまま、

(や、やっちまったぁぁぁぁぁ!!)

 と、心の中で絶叫するしかなかった。
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