同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四九四話『撮影現場で、隠しきれない距離感』

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 撮影当日の朝。

 俺──真壁弘弥は、ビジネスホテルのベッドの上で、
 悪夢から覚めるように飛び起きた。

 息が荒い。
 胸が高鳴っている。

 そして、──最悪なことに、

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 掛け布団の下、下半身の異常事態に気づいた。

(また、やっちまったぁぁぁぁっ!!)

 そう。

 恒例の、

 ──夢精。

 旅行中だろうが、仕事だろうが、容赦なく訪れる成長期男子の悲しき生理現象。

(しかも、今日これから撮影現場に顔出しなのに……!)

 混乱しながら、シーツをなんとか隠そうとしたその瞬間──

「……ぷっ」

 隣のベッドから、笑い声が漏れた。

「……お、おはよう、弘弥」

 そこには、

 パジャマ姿の、紗凪がいた。

「な、なななな、なんで!!」

 俺は叫んだ。

「き、昨日、スタッフさんの手違いで、部屋間違えたらしくて……」

 紗凪は、肩を震わせながら笑いを堪えていた。

「でも、まさかこんなレアなもの見られるとは……!」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 俺は枕に顔をうずめた。

 顔面真っ赤だった。

 紗凪は、そんな俺を見ながら、

「……うん、弘弥、昔と変わんないね」

 と、どこか懐かしそうに、笑った。

 その笑顔は、

 優しくて、あったかかった。

 こうして、

 史上最悪の目覚めを経て、

 俺は撮影現場へ向かうことになった。

 ──そして、そこでも問題が待っていた。

 現場入りすると、すでに準備は始まっていた。

 大道具、照明、カメラ、スタッフが忙しく動き回る。

 紗凪も、主演女優としてプロフェッショナルな顔つきに戻っていた。

 役に入り、スタッフに丁寧に挨拶し、

 台本を片手に集中する。

 その姿は、まさに『女優・結咲紗凪』だった。

 ──だが。

 時折、
 誰にも見られていないときだけ。

 紗凪は、俺の方をちらりと見た。

 ほんの一瞬、
 子どもの頃と同じ、
 甘えるような、寂しそうな顔で。

(……紗凪)

 胸が、ぎゅっと締め付けられる。

 そんな俺の様子を、見逃すわけがないヒロインズたち。

「ねぇ、ルナ、見た?」

「見た見た。あの子、弘弥を見るとき、絶対なんか違うよね?」

「……観察対象、特別視確定」

「黄金の絆、再び──」

 碧純、ルナ、すみれ、ひより、ことねが、
 撮影スタジオの隅で、密やかに作戦会議を開始していた。

 碧純が、ぎゅっと拳を握る。

「……負けないから」

 その目は、燃えていた。

 恋の嵐は、まだ、始まったばかりだ。
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