同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第五〇三話『すれ違う気持ち──紗凪の孤独』

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 ──賑やかな声が、リビングに満ちていた。

 正妻戦争、第一ラウンド。

 地獄の個別デート作戦の準備で、ヒロインたちはワイワイと盛り上がっていた。

「服、どうする!? 新しいの買う!?」「いや、ここは勝負下着も……!」

「デートプラン練り直そう」「いや、逆にナチュラルさが大事かも……!」

 ルナ、碧純、すみれ、ひより、ことね、ミレーヌ、エレノア──

 皆、キラキラした目で作戦を練っていた。

 そんな中。

 ひとりだけ、

 その輪に加われない存在がいた。

 ──結咲紗凪。

 ソファの端っこに、ぽつんと座る紗凪。

 スマホをいじるふりをしていたが、

 指はまったく動いていなかった。

 目も、画面を見ていなかった。

 ただ、

 遠くから、

 みんなの楽しそうな笑い声を、

 じっと聞いていた。

(……別にいい)

(私は、みんなと違うから)

(芸能界にいたし、学校だって違うし)

(……違う世界の人間だから)

(別に、寂しくなんか──)

 ──でも、

 胸が、

 痛かった。

 ギュッと、苦しかった。

 その光景を、

 俺は、

 気づいていた。

 ちらりと、視線を送るたびに、

 紗凪の肩が、少しだけ小さく震えているのが見えた。

 でも──

 俺は、

 声をかけられなかった。

 気まずかった。

 どう声をかけたらいいか、

 分からなかった。

 紗凪と俺の間には、

 どうしても拭えない、

 『過去』が、あったからだ。

(今さら、何を言えるんだよ……)

 自嘲するしかなかった。

 そして、

 リビングの熱気は、さらに高まっていった。

「これ! 弘弥と一緒にやったら絶対楽しい!」

「これもいいかも! 兄、絶対喜ぶよ!」

「……デートでの萌え仕草、リストアップ完了」

「黄金の刻に向けて、最終調整……」

 キラキラとした笑顔たち。

 ワクワクとした未来への期待。

 ──その中に、

 紗凪の居場所は、なかった。

(……わたしも、)

(あの中に入りたい)

(でも、怖い)

(受け入れてもらえる自信なんて、ない)

(だって、わたし──)

(弘弥の隣にいたのは、誰よりも昔なのに)

(今じゃ、誰よりも遠い気がするから)

 小さな、小さなため息が、

 紗凪の口から漏れた。

 誰にも、

 届かない、

 孤独な音だった。



 ──そして、夜。

 各ヒロインたちは、

 次々と弘弥とのデートプランを練り直していた。

 ああしよう、こうしようと、

 遅くまで、活気に満ちた会話が続く。

 紗凪だけが、

 静かに、自室へ戻った。

 そっと、ドアを閉める。

 暗い部屋。

 誰もいない。

 ただ、自分の吐息だけが響く。

(……こんなはずじゃなかったのに)

(弘弥に、会いたくて、戻ってきたのに)

(なんで、こんなに遠いんだろう)

 ベッドに潜り込む。

 毛布にくるまって、

 小さく小さく、

 声にならない涙を、こぼした。

 その頃、リビングでは、

「明日のデート、頑張ろうね!」「うん!」「絶対負けない!」

 そんな明るい声が、響いていた。

 すれ違う気持ち。

 広がる孤独。

 ──正妻戦争の裏側で、

 確かに、

 小さな、

 悲しみが、

 芽生えていた。

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