同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

【第五〇九話】『弘弥の答え──まだ選べない、でも』

　リビングに流れる空気は、どこか切なさを帯びていた。
　一夫多妻制の話も、国際結婚の話も、すべて冗談では済まされない現実味を帯びていたからだ。
　ヒロインズはそれぞれ複雑な表情で沈黙し、弘弥の言葉を待っていた。

　弘弥は、俯いていた顔をゆっくり上げた。
　唇を噛み締め、必死に、言葉を絞り出す。

「……俺は、」

　皆の視線が、一斉に集中する。

「誰も捨てたくない。」

　短く、しかしはっきりとした声だった。

「誰か一人を選んで、他の子を傷つけるなんて……そんなこと、できない。」

　ルナが少し目を見開き、碧純がきゅっと唇を引き結んだ。
　すみれは静かに目を閉じ、ひよりは無表情のままペンを止めた。
　ミレーヌが手を胸に当て、エレノアはわずかに微笑んだ。
　ことねは小さく息を飲み、紗凪はただ、じっと弘弥を見ていた。

「でも、だからって、全部を抱え込むこともできない。」

　弘弥は続けた。
　声は震えていたが、確かな覚悟があった。

「……今すぐに、答えは出せない。
　だけど、絶対に中途半端な気持ちでは選びたくない。
　みんなのことを、本当に大切に思ってるからこそ──」

　弘弥は、ひと呼吸おいた。

「ちゃんと、自分の気持ちに向き合って、答えを出したいんだ。」

　その言葉に、
　ヒロインズたちは一様に静かに頷いた。

　ルナが、ふっと笑った。「……ま、だろうな。兄らしいっちゃ、兄らしいわ。」

「……兄が、そんなこと言うって、分かってた。」碧純も目を細めた。

　すみれが微笑む。「だから、急かしたりしません。……でも、負ける気もありませんよ。」

「観察対象、覚悟の表明。記録完了。」ひよりが静かにペンを走らせる。

　ミレーヌは涙ぐみながら、「……弘弥様……わたくし、待ちますっ！」と拳を握りしめた。

「ふふ、覚悟のある殿方は、素敵ですわね。」エレノアが優雅に微笑む。

「黄金の選択、成就を見届けよう──」ことねが静かに詠うように言った。

　そして、紗凪。
　彼女は、一歩だけ弘弥に近づいて、囁いた。

「……だから、絶対に、負けない。」

　その一言には、誰よりも強い想いが込められていた。

　弘弥は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
　こんなにも自分のことを想ってくれる人たちに囲まれている幸せと、
　それと同じくらいの重さを持つ、責任。

（……絶対に、後悔させたくない。）

　強く、そう思った。

　ヒロインズたちは、そんな弘弥を囲みながら、
　再び、静かに戦いの火を燃やしていた。

「じゃあ、次のデート、もっと本気でいくからね！」ルナが腕まくりをする。

「兄、覚悟してね……？」碧純がじっと見つめる。

「……勝負は、これからです。」すみれが微笑む。

「次は、科学的に恋を勝ち取る。」ひよりが宣言する。

「わたくしも……もっと、弘弥様に相応しい存在になります！」ミレーヌが震える声で言う。

「王族たる者、愛においても負けられませんわ。」エレノアが涼やかに微笑む。

「黄金の未来、勝ち取るために──」ことねが小さく拳を握る。

　そして、紗凪は、
　ただ、静かに、
　だが誰よりも強い意志で弘弥を見つめていた。

　正妻戦争は、終わらない。
　誰一人、あきらめない。

　そして弘弥もまた、逃げないと、心に誓った。

　まだ答えは出せない。
　でも、この気持ちは、絶対に偽らない。

　この時間を大切にする。
　この想いを、まっすぐに守り続ける。

　それが、今の自分にできる、
　唯一の答えだった。