同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

【第五一〇話】『一時休戦──文化祭編、始動！』

　リビングには、ほんの少しだけ、穏やかな空気が戻っていた。
　正妻戦争──熾烈で過酷だった争いは、弘弥の覚悟表明を経て、一時的に休戦となった。

「……とはいえ」
　ルナがソファに寝転がりながら呟く。「休戦ってだけで、終戦じゃないからね？」

「兄がちゃんと答えを出すその日まで、私は全力でアピール続けるから！」碧純が真剣な目で宣言する。

　すみれは静かに笑った。「……勝負の場は、ひとまず学園へと移りますね。」

「文化祭──恋愛力測定、開始」ひよりが淡々とノートを開いた。

「黄金の祭典、愛を制する者が運命を制す──」ことねがまた詩的に詠った。

「わ、わたくしも……弘弥様のために、頑張りますっ！」ミレーヌが拳を握る。

「ふふ……学園での戦いも、なかなか趣深いものになりそうですわ」エレノアが優雅に微笑んだ。

　そして、紗凪もまた、小さく頷く。「……負けない。」

　正妻戦争が小休止したその翌日、学園はすっかり文化祭ムード一色に染まっていた。

　廊下には装飾用のカラフルなポスターが貼られ、あちこちから楽しそうな声が聞こえる。
　教室では模擬店の準備に奔走する生徒たち。
　体育館では演劇部やダンス部が練習に励んでいた。

　弘弥も、ヒロインズに引っ張られるように、文化祭準備に巻き込まれていく。

「兄！ 私たちのクラス、カフェやるんだよ！」碧純が嬉しそうに報告する。

「お兄も手伝ってな～？ イベントスタッフとかあるし！」ルナがニヤリと笑う。

「あなたには脚本アドバイザーをお願いしたいのですが」すみれがメモを差し出してくる。

「文化祭限定・恋愛行動データも収集開始するから」ひよりがペンを走らせながら追いかけてくる。

「黄金の恋文、展示します──！」ことねが謎ポスターを作り始める。

「弘弥様、ぜひわたくしの執事役を……！」ミレーヌが勝手に衣装を用意する。

「もちろん、わたくしのサロンにもご招待いたしますわ」エレノアが豪奢なティールーム企画を立てる。

「……一緒に、回ろ？」紗凪が小さく、でも確かな声で誘ってくる。

　準備でバタバタしながらも、
　弘弥は胸がじんわりと温かくなるのを感じていた。

　こうして、みんなと一緒に文化祭を作り上げる時間。
　争ってばかりだったけど、やっぱり笑い合える瞬間がある。
　それが、たまらなく愛おしかった。

　放課後、教室の窓から夕陽が差し込む中、
　全員が教室に集まった。

「明日から文化祭本番だな！」ルナが張り切る。

「兄、気を抜いちゃだめだからね。こういう時が一番、恋愛力アピールのチャンスだから！」碧純が指を突きつける。

「……楽しみですね。」すみれが柔らかく笑う。

「成功率６５％、ここからが勝負」ひよりが冷静に告げる。

「黄金の未来、私たちが掴み取るんです！」ことねが拳を握る。

「絶対、弘弥様に振り向いてもらいます！」ミレーヌがきらきらと目を輝かせる。

「ふふ、最後に笑うのは──わたくしたちですわ」エレノアが不敵に微笑む。

「……絶対、負けないから。」紗凪が小さな声で、だけど力強く言った。

　弘弥は、それを見渡して、苦笑いを浮かべた。

「……みんな、ほんとに負けず嫌いだな。」

「当然！」ルナが即答する。

「兄は、私のなんだから！」碧純が真顔で叫ぶ。

「……それなら、それぞれ全力でいきましょう」すみれが静かに火を灯す。

「記録も競争も、まとめて受けて立つ」ひよりがメモを構える。

「黄金の夜明け──近し」ことねが高らかに宣言する。

「弘弥様……絶対に、後悔させませんっ！」ミレーヌが顔を赤く染める。

「ふふ、正妻たる者、愛も知恵も全てにおいて勝たねばなりませんから」エレノアが微笑む。

　そして──
　全員が一斉に叫んだ。

「──でも絶対、私が勝つから！」

　夕陽が、窓の外を真っ赤に染めていた。
　文化祭という新たな舞台を前に、
　誰一人、引く気はない。

　弘弥の、
　そして彼女たちの、
　新しい戦いの日々が──
　今、幕を開ける。