同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五一八話】『文化祭の夜、交錯する想い』

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 グラウンドの真ん中。
 倒れたテントの残骸を片付けたあと、全員がなんとなく、キャンドルの灯りの中に集まっていた。

 夜の空気はひんやりとして、
 それでも熱気はまだ、心の奥に残っている。

「……ごめん。」

 弘弥は、ゆっくりと顔を上げた。

「本当は……誰かの手を取らなきゃいけなかったのに。
 誰も選べなかった。
 誰も傷つけたくないって思った結果、何もできなかった。」

 悔しそうに唇を噛みしめる。

 その顔を、ヒロインたちは、
 一人ずつ、じっと見つめていた。

 そして。

 最初に笑ったのは、ルナだった。

「いいじゃん、それで。」

 彼女は、ニカッと眩しい笑顔を見せた。

「お兄が優しいの、知ってるもん。だから、焦らなくていい。」

「……兄、バカだけど、優しいバカだからね。」
 碧純も、肩をすくめて小さく笑う。

 すみれがそっと歩み寄ってきた。

「私たち、知ってますから。あなたが誰よりも、私たちを大事に思ってくれてること。」

「観察対象──優柔不断、でも誠実。」
 ひよりがメモを取って、静かに呟く。

「弘弥様は……わたくしにとって、世界で一番素敵な方です!」
 ミレーヌが両手を胸に当て、真剣に言う。

「ふふ、急ぐ必要はありませんわ。
 愛は、育むものですから。」
 エレノアが、柔らかく微笑んだ。

 そして紗凪は。
 小さく、でも確かに頷いた。

「……待ってる。」

 その言葉が、
 弘弥の胸に、
 温かく沁みた。

 誰も、責めなかった。
 誰も、怒らなかった。
 ただ──それぞれが、自分の気持ちを抱えながら、微笑んでいた。

「……ありがとう。」

 弘弥は、心からの声でそう言った。

 ◆

 そのとき。
 夜空に、一発目の花火が打ち上がった。

 ドンッ──!

 大輪の光が夜空に咲き、
 グラウンドを、学園を、
 照らした。

 色とりどりの花火。
 轟く音。
 空を焦がすような輝き。

 誰もが、顔を上げてそれを見た。

「すっげぇ……!」
「きれい……」
「これ、今年の文化祭、最高だったな……」

 生徒たちの歓声が響く中。
 弘弥は、
 自分の胸の奥で、
 小さな「何か」が動くのを感じた。

 ──この中で、
 誰か一人だけを、強く意識している自分。

 まだはっきりとは見えない。
 でも、たしかに心に浮かび始めた、その人の笑顔。

(……俺は、きっと──)

 まだ答えは出ない。
 でも、必ず向き合うと、誓った。

 頭上で、次々に花開く光の華。

 ヒロインたちが、それぞれの想いを胸に抱きながら、
 そっと、弘弥の周りに寄り添った。

 一人じゃない。
 皆がいる。
 そして、きっと、その先に──

 まだ知らない、未来がある。

 ◆

 夜空に、
 一番大きな花火が咲いた。

 文化祭は、
 こうして幕を閉じた。
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