同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五一九話】『手作りで勝負!──ヒロインズ、料理バトル開始』

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「──弘弥に一番美味しい料理を食べさせるのは、私だ!!」

 ルナの宣言がリビングに響き渡った。

「はぁ!?」
「いや、当然私だから!」
「兄は、私の料理しか食べちゃダメ!」

 碧純、すみれ、ひより、ミレーヌ、エレノア、紗凪まで──
 全員が一斉に立ち上がり、ものすごい殺気を放つ。

 テーブルの上には、手作り料理勝負用の食材がずらりと並べられていた。
 肉、魚、野菜、チーズ、パスタ、小麦粉、果ては謎の海外スパイスまで。

 弘弥は、呆然と突っ立ったまま、ただただ状況を見つめていた。

(な、なんでこうなるんだよ……)

 少し前まで、ただの「みんなで昼食作ろう」だったはずなのに。
 今では、完全に『正妻力をかけた料理バトル』に発展していた。

「よし! 制限時間は一時間! テーマは自由! それぞれ一品ずつ作ること!」

 ルナが独断でルールを設定する。

「兄に食べてもらって、反応が一番よかった人が勝ちだから!」

 碧純もノリノリで加勢する。

 すみれは眼鏡を押し上げて冷静に言った。

「……公平性を期すため、弘弥くんの表情と反応をひよりさんに記録してもらいましょう。」

「観察対象、表情筋、胃袋負荷レベル、計測開始。」

 ひよりが即座にノートとストップウォッチを構えた。

「わ、わたくしも、精一杯……!」
 ミレーヌが民族エプロン姿で気合いを入れる。

「ふふ、弘弥様……覚悟なさいませ。」
 エレノアが微笑みながら、なぜか包丁をピカピカに研ぎ始める。

「……絶対、勝つ。」
 紗凪が、静かにフライパンを握りしめた。

 ◆

 ──そして、料理バトル開始。

「兄! あたしのオリジナル七色パスタ、楽しみにしてろよー!」
 ルナは、なぜか食用色素を大量投入し、パスタをレインボーに染め始めた。

「兄には、栄養バランス完璧なスーパーフード丼!」
 碧純は、意識高い系の雑穀やらスーパーフードやらをこれでもかと盛り込んでいく。

「……身体に良い薬膳スープ、作ります。」
 すみれは真面目に作っていた──はずなのだが、あまりに本格的すぎて鍋が薬草臭くなっていた。

「試作品──特製納豆タワーパフェ。」
 ひよりが、冷蔵庫から納豆と生クリームを取り出してきたとき、弘弥の胃が悲鳴を上げた。

「弘弥様! わたくしの国の伝統料理──羊の脳みその蒸し煮を!」
 ミレーヌが満面の笑みで生肉を準備しているのを見て、弘弥は軽く意識が飛びかけた。

「わたくしは、“愛を込めた激辛地獄カレー”で参りますわ。」
 エレノアのカレー鍋からは、もはや立ち上る蒸気だけで目が痛くなるレベルの辛味が充満していた。

「……おにぎり、作った。」
 紗凪が小さく差し出したおにぎりは──
 どう見ても、武器に使えそうな硬度だった。

 ◆

 そして、一時間後。
 戦場のようなキッチンから、ヒロインたちが料理を持ち寄った。

「兄! あたしの虹色パスタ! 見た目最高だろ!?」

「兄、こっち食べて! 栄養満点だから!」

「まずはスープをどうぞ……覚悟して飲んでくださいね。」

「納豆タワーパフェ、完成。」

「弘弥様っ! 異国の香りを召し上がれ!」

「さぁ、弘弥様──この地獄カレーを……!」

「……にぎった。」

 テーブルいっぱいに並べられた、個性の暴力。

 弘弥は、
 震える手でフォークを持った。

(これは……死ぬかもしれない……)

 覚悟を決め、ルナの虹色パスタをひと口。

 ──ドギツい甘さと、謎のケミカルな味。

 次、碧純のスーパーフード丼。

 ──パサパサして喉が詰まる。飲み物必須。

 次、すみれの薬膳スープ。

 ──……苦い。とにかく苦い。

 ひよりの納豆パフェ。

 ──説明不要。地獄。

 ミレーヌの脳みそ蒸し。

 ──ギリギリ、アウト。

 エレノアの激辛カレー。

 ──一口で涙目&胃に爆弾直撃。

 紗凪の超硬おにぎり。

 ──歯が、歯がぁぁぁ!!!

「う、ううっ……」

 弘弥は、胃を押さえながら机に突っ伏した。

「お、お兄……?」

「兄!? 大丈夫!?」

「……胃袋、負荷オーバー……」

「観察対象、戦闘不能判定。」

「弘弥様ああああああ!!」

「……ごめん。」

 騒ぐヒロインたちの声を遠くに聞きながら、
 弘弥は、そっと、
 最後に机の端に置かれたタッパーに目を向けた。

 中には──

 素朴な、ぬか漬け。

 きゅうりと、にんじんと、大根。
 ただ、それだけ。

 だが、その色艶は、どこか優しく、温かかった。

(これだけ、……まともそうだ……)

 震える手で、きゅうりをつまみ、
 口に運ぶ。

 ──カリッ。

 口の中に広がったのは、
 優しい酸味と、
 ほんのりとした甘み。

(……うまい……っ)

 弘弥の瞳に、
 ひとすじ、光が差し込んだ。
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