同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五二八話】『全国出版決定──純文学新人賞、受賞』

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「──おめでとうございます、真壁先生!」

 出版社の応接室で、編集者たちが一斉に立ち上がり、拍手を送った。

 弘弥は、ぽかんと立ち尽くしていた。

(……まじ、で?)

 机の上には、一枚の賞状が置かれている。

【第32回 紫苑文学賞 受賞作品】
 ──『きみと、ぬか床と、永遠と。』 真壁弘弥

 紫苑文学賞。
 権威ある、そして超伝統的な純文学の賞。

 これまでは、重厚な社会派小説や、
 時代を抉るような骨太な作品が選ばれてきた。

 そこに──

 ぬか床。

 美少女たちの汗と皮脂と涙と愛情で育てられた、青春のぬか床。

(なんで……!?)

 未だに信じられないまま、弘弥は座った。

 対面にいるのは、
 彼の担当編集──久遠美月。

「いやー……やったね、先生!!」

 美月は満面の笑みで、机をバンバン叩いていた。

 童顔ロリ体系ながら、れっきとした大人。
 だが今は、その外見年齢そのままに、はしゃぎ回っていた。

「まさか! ぬか床で! 純文学賞獲るとは!!」

「俺だって予想してなかったよ!!!」

 思わず叫び返してしまう。

 ◆

「しかもさ、受賞理由がすごいの!」

 美月が興奮した様子でタブレットを取り出し、読み上げた。

『本作は、日常に潜む微細な営みを、驚くほどの純度で描ききった。』
『汗と皮脂と愛情という“人間の最小単位”に焦点を当てた視点は斬新であり、普遍的である。』
『ぬか床という題材を通じて、“発酵する青春”をこれほど美しく描いた作品は他にない。』

 弘弥は、耳まで真っ赤になった。

(汗と皮脂の純文学って何だよ……!!)

 喜ばしいはずなのに、いたたまれない。

 ◆

 そこへ──

「やっっっっっったああああああああ!!!!!!!」

 扉を蹴破る勢いで、また一人、飛び込んできた。

 神名寺いおり。

 弘弥の作品をコミカライズしている、
 妖艶な作風の超人気漫画家。

「先生!! 大勝利じゃないですかあああ!!!」

 彼女はもう、テンションが限界突破していた。

「美少女×汗×皮脂×ぬか床!! 公式認定!! 文化的勝利!!!」

「言い方ァァァァァァ!!!」

 弘弥が椅子から転げ落ちそうになる。

 だが、いおりは止まらない。

「次はこれを!! 世界に!! 英訳して!! 出しましょう!!!」

「やめてえええええ!!! 世界に俺を晒さないで!!!」

 必死に抵抗する弘弥を、美月がニヤニヤしながら見ていた。

「ふふ……合法ロリ担当としても、これは外せないよね。」

「待って、どこに合法要素が!!?」

「だって、美少女たちの素手の汗と皮脂を、あそこまで美しく描写できる作家、他にいないもん!」

「その表現、ほんとやめて!!!」

 ◆

 そんな大騒ぎの中──

 応接室の隅では、出版社の重役たちが
 真面目な顔で小声で話し合っていた。

「……すごいぞ、この反響。」
「ぬか床……今まで誰も見向きしなかった発酵食品を……ここまで高尚に……」
「真壁先生こそ、次世代の文化的アイコンだ……!」

 ──評価は、もはや変な方向に突き抜けていた。

 ◆

「それじゃ、先生。」

 美月がにっこり笑った。

「今度の授賞式、スピーチあるからね!」

「……え、なに言うの?」

「もちろん、ぬか床への愛を熱く語るんだよ!」

「無理だああああああああ!!!」

 絶叫する弘弥をよそに、
 美月はいそいそとスピーチ原稿の準備を始めた。

 ◆

 そして。

 数日後。

 壇上に立った弘弥は、真顔でこう語ることになる。

 ──「ぬか床は、人生です。」

 ──「汗と皮脂は、愛です。」

 ──「発酵は、青春の証です。」

 審査員席、観客席、関係者席。

 全員の顔が、

「……?????」

 と完璧にフリーズしていたのは、言うまでもない。
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