同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五二九話】『ぬか床巡礼──ファンイベント大混乱』

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「──先生、すごいことになってます!」

 朝から担当編集・久遠美月の興奮した声が、スマホ越しに炸裂した。

「な、なにが……?」

 寝ぼけ眼で電話に出た弘弥に、美月は叫ぶように言った。

「全国で、“ぬか床巡礼ツアー”が始まってます!!」

「はああああああああああああああ!?」

 ◆

 ──数時間後。

 弘弥は、スマホの画面を食い入るように見つめていた。

 SNSには、次々と投稿される“聖地巡礼”レポートの数々。

『#ぬか床聖地巡礼』
『#青春発酵の地』
『#弘弥先生の奇跡』

 ──ツアー内容──

 ・第一拠点:「真壁弘弥がかつて暮らした町」周辺のスーパーの漬物コーナー
 ・第二拠点:「作中モデル」とされる地元温泉宿のぬか漬け
 ・第三拠点:「ぬか床発酵研究所」(なぜか巻き込まれた)

 さらには──

『聖地のぬか漬けを食べて青春を味わおう会』
『ぬか床素手体験イベント開催決定!』

 と、謎イベントが次々と立ち上がっていた。

(何このカオス!?)

 弘弥は、震える指でページをスクロールした。

 どの写真にも、
 ぬか漬けを両手で持ち、感涙しているファンたちの姿が。

 ──「この香り、弘弥先生の世界観そのものです……!」
 ──「ぬか床に青春感じたの初めて」
 ──「皮脂は裏切らない」

 なぜか、
 妙なところで感動が広がっていた。

 ◆

 そんな中──

「お兄ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 自宅リビングに、怒号が轟いた。

「責任取れええええええええええ!!!!」

 ルナが突撃してきたかと思えば、
 碧純も顔を真っ赤にして後に続く。

「兄!! 兄のせいで……!!!」

「わ、わたしまで、“ぬか床の姫”って呼ばれてるんだけど!!!?」

 ルナはスマホ画面を突きつける。

 そこには──

【#ぬか床の姫】【#虹色パスタとぬか床の奇跡】

 という地獄のハッシュタグ。

 ◆

「ちょっと……! こんな青春、いやああああああああ!!!!!」
 碧純が泣きそうな声を上げる。

「兄、どうしてこんな……変な文化祭みたいなことに……!」

 すみれも、顔を真っ赤にしながらうろたえていた。

「兄、私たちの汗と皮脂が、今や全国ネットだよ……?」
 ひよりが淡々と指摘する。

「弘弥様……わたくし、少しだけ誇らしいですが……でも……!」
 エレノアも困惑と誇りの間で揺れていた。

「わ、わたくし、異国から来てまで……ぬか床の姫認定……っ!!」
 ミレーヌは顔を覆って号泣していた。

「……やったな、兄。」
 紗凪は、妙に達観した目で呟いた。

 ◆

「ち、違うんだ!!!」

 弘弥は必死に弁解しようとする。

「そんなつもりじゃなかったんだ!!!」

「でも兄……」

 碧純が、震える声で言った。

「兄は、全国に向けて、言ったんだよね……?」

「……汗と皮脂は、愛です。」

「──青春は、発酵です。」

「──ぬか床は、人生です。」

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」

 弘弥は、頭を抱えて絶叫した。

 ◆

 その頃。

 どこかのカフェでは──

 ファンたちが、
 ぬか漬けをかじりながら青春を語り合っていた。

「ぬか床……マジでエモい……」
「弘弥先生、マジリスペクト……」
「青春って、ぬか漬けだったんだな……」

 誰一人、まともな判断を失ってはいなかった。

 ◆

 弘弥は、
 自室に戻ると、
 そっと、机の上のタッパーを見つめた。

 タッパーの中では、
 今日も静かに、ぬか床が発酵していた。

(……お前は、悪くない。)

 ただ、
 世界が──

 勝手に狂っただけだ。

 ◆

 こうして。

「ぬか床巡礼ツアー」は日本全国に拡大し、
 弘弥とヒロインたちは、
 しばらく“ぬか床青春の象徴”として、
 奇妙な脚光を浴び続けることになる。
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