同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五三〇話】『それでも──君たちと、笑って生きたい』

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 夜。
 台所に面した小さなダイニングに、弘弥たちは集まっていた。

 大騒動を乗り越えたあとの、静かな夜。

 卓上には、手作りのおかずと、ぬか漬けの小皿。

 みんな、どこか気恥ずかしそうに、けれど穏やかに、席についていた。

「……結局、全国区になっちゃったね、兄。」
 碧純が、ぽつりと呟く。

「まさか、ぬか床で聖地巡礼が始まるなんてなぁ~」
 ルナが、箸を持ちながら苦笑いする。

「兄、次はどんな文化祭を起こすの?」
 ひよりが興味津々で尋ねてくる。

「もうやらないから!!!」
 弘弥は、即座に否定した。

 皆が、くすくすと笑う。

 すみれは、
 静かにご飯をよそいながら言った。

「でも──弘弥くんらしいと思います。」

「うん、なんか……すごいと思う。」
 ミレーヌも、胸に手を当てて頷いた。

「汗と皮脂で、青春を語れる殿方……」
 エレノアはなぜか恍惚とした表情で見つめてくる。

「……兄、たぶん、一周回ってすごいんだな。」
 紗凪も、静かに言った。

 ◆

 弘弥は、
 小さなタッパーを手に取った。

 中には、あの日から少しずつ育ち続けているぬか床。

 手を加え、守り続けた、
 ──小さな奇跡。

 弘弥は、キュウリのぬか漬けを取り出し、
 包丁でコトリと小さな音を立てて切った。

 それを、一切れ、口に運ぶ。

 カリッ。

 口いっぱいに広がる、
 塩気、酸味、そして……温もり。

 ふっと目を閉じた。

 浮かんでくる。

 笑い声。
 涙。
 喧嘩。
 やきもち。
 不器用な優しさ。
 隠しきれない想い。

(──ああ、そうか。)

 思い出す。

 あの日々が、
 この一切れの中に、
 全部、詰まっている。

「……変でもさ。」

 弘弥は、ふっと笑った。

「馬鹿みたいでも、恥ずかしくても。」

 皆の顔を見渡す。

「俺、青春って……最高だって、思った。」

 テーブルの向こうで、
 碧純が、大きく目を見開いて、
 それから、ふわっと微笑んだ。

「……うん。私も、そう思う。」

 ルナも、グーサインを作って笑った。

「青春って、汗臭くて、バカで、でも……最高だよね!」

 すみれが、微笑みながら頷き、
 ひよりが、無言でカリカリとノートに何かを書き留める。

 エレノアは、
 頬を赤らめながら、そっと手を合わせた。

「弘弥様……これからも、どうか、ご一緒に。」

 ミレーヌも、小さな声で言った。

「わたし……ここにいられて、幸せです。」

 紗凪は、ただ一言。

「──馬鹿だけど、嫌いじゃない。」

 ◆

 弘弥は、
 みんなで囲む食卓を見渡した。

 何も豪華じゃない。
 ただの家庭料理と、ぬか漬け。

 でも──

 ここにあるのは、
 どこにも負けない、
 世界でいちばん眩しいものだった。

(俺は、きっと──)

 この手で、
 まだまだ、たくさんの奇跡を紡いでいくんだろう。

 この、小さな家で。
 この、かけがえのない仲間たちと一緒に。

「……いただきます!」

 弘弥の声に、皆が揃って手を合わせた。

 そして──

 カリッ、カリッ、カリッ。

 小さな咀嚼音が重なった。

 笑い声がこぼれた。

「しょっぱーい!」
「でも、うまい!」
「これが青春の味か……!」

 ぬか漬けをかじりながら、
 みんなが、心から笑っていた。

 ◆

 ──こうして。

 汗と皮脂と愛情の結晶だった、
 “ぬか床青春騒動”は、
 一つの大団円を迎えた。

 そして、
 真壁弘弥の物語は、
 まだまだ続いていく。

 次なる奇跡へと──
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