同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五三五話】 『葡萄まみれの大惨事──抱きつき事故発生』

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「よーし、もうちょっとだー!」
 ルナが叫びながら、葡萄タンクの中で跳ねる。

「兄、こっち見ないでぇぇぇぇぇぇ!!」
 碧純が必死にスカートを押さえながら踏み踏みしている。

「発酵……青春発酵……」
 ひよりは目を細めて、無心で葡萄を踏み続けていた。

 タンクの中は、すでに悲惨な有様だった。
 葡萄の皮、果汁、踏み潰された果実がぐちゃぐちゃに混ざり合い、
 紫色の湖と化していた。

「弘弥様、記録をお忘れなく!」
 エレノアが優雅に微笑む。

「忘れたくても忘れられるかあああああ!!!」

 カメラを構える弘弥の顔は、
 限界寸前だった。

 ◆

 その時──

「……あっ」

 タンクの中で、ひよりが小さく声を上げた。

 足元、ぬるぬると滑る葡萄の海。

 バランスを崩し──

「わぷっ!」

「うわっ、ちょっ──」

 バシャアアアアアアアア!!!

 重力に逆らえず、
 ひよりが盛大に弘弥めがけて飛び込んできた。

 ◆

 ドッシーン!!

「ぐえっ!」

 弘弥は思いっきり受け止め、
 そのまま後ろにひっくり返る。

 葡萄汁まみれのひよりが、
 弘弥の胸に顔を押しつけ、
 べったりと密着する形に。

(ぬ、ぬるぬるしてるううううう!!!)

 理性崩壊まで、残り0.5秒。

「兄ぃぃぃぃぃ!!?!」

 それを見た碧純が絶叫。

「待て待て待て待て!?」

 ルナも慌ててタンクから飛び出そうとするが──

「きゃっ!」

 足を滑らせ、空中回転、そして──

「──兄の顔面に、キックイン!!!!」

 ズガアアアアアアアアア!!!!

 ◆

 もんどり打って倒れる弘弥。

「うぎゃあああああああ!!!」

 その上に、さらにすみれが崩れ落ち、
 ミレーヌも巻き込まれ、
 エレノアまでもがバランスを失い、
 全員が──

 ドサドサドサドサドサ!!!

 ──ぶどうジュースまみれで重なり合った。

 ◆

「……ぐ、ぐるじ……」

 葡萄の香り、
 素足のぬるりとした感触、
 重なり合う柔らかな身体。

 あらゆる感覚が、洪水のように押し寄せた。

「弘弥様っ、失礼をっ、わたくし、足がっ……!」

「兄、兄、どこ掴んでるのー!!?」

「青春……青春、発酵中……」

「ぎゃー!変なとこ触った!違う!わざとじゃない!!」

「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 阿鼻叫喚。

 ぐちゃぐちゃ、ずるずる、きゅっきゅっ。
 葡萄まみれのカオス地獄。

 ◆

 弘弥の脳内では、
 奇妙なスイッチが入っていた。

(──これが、青春……)

 葡萄と汗と、笑い声と、
 少しの涙と、照れ隠しと。

 ぐちゃぐちゃで、必死で、
 恥ずかしくて、
 でも、たまらなく愛しい。

(発酵してる……今、俺たち、青春を発酵させてるんだ……!!!)

 脳内スパーク。

 ◆

 その後、
 護衛たちにより全員まとめて救出され、
 葡萄ジュースまみれのまま、
 農園の水場で冷水シャワーを浴びる羽目になった。

「兄、今日一日で理性100回死んでるよね……」

 碧純が、タオルで顔を拭きながら呟いた。

「……兄、マジで一回検査受けろ。」
 紗凪も無言で頷く。

「でもまぁ……」
 ルナが笑いながらタオルを肩にかけた。

「楽しかったよな!」

 弘弥は、
 冷たい水に打たれながら、
 小さく笑った。

(……ああ、ほんとに。)

(青春って、最高だな。)

 ◆

 こうして。

 葡萄汁まみれ、泥だらけの大惨事の中、
 真壁弘弥とヒロインたちは──

 また一つ、
 発酵した青春の記憶を刻みつけたのだった。
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