同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五三六話】 『伝統儀式・ワインの誓い──「未来に乾杯!」』

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 葡萄汁まみれの大惨事から、数時間後。
 シャワーを浴び、着替えを済ませた弘弥たちは、
 改めて農園の奥に設えられた小さな礼拝堂へと集められていた。

 石造りの素朴な建物。
 天窓から差し込む西日が、
 ゆっくりとした時間を照らしている。

「これより、伝統の“ワインの誓い”を執り行います。」

 エレノアが、
 いつになく神妙な面持ちで宣言した。

「本日、皆様の素足で踏みしめられた葡萄──」

「それは、ただの果実ではありません。」

「汗と、涙と、笑いと、想い。」

「青春そのものが、今、ここにあるのです。」

 弘弥は、
 言葉を失って、ただ聞いていた。

 エレノアが手を広げると、
 中央の壇上に、大きな樽が運び込まれる。

 先ほど皆で踏んだ葡萄が、
 果汁となり、そこにたっぷりと注がれていた。

 紫色にきらめく、甘やかな液体。

 その香りは、
 どこか懐かしく、
 どこか切なく、
 確かに「今」を閉じ込めていた。

 ◆

「この果汁は──」

 エレノアが静かに続ける。

「これから何年もかけて、発酵と熟成を重ねます。」

「皆様が成人するその日まで、
 ずっと、この国で、大切に育てられるのです。」

「そして──」

「その時が来たら、」

「皆様で、乾杯しましょう。」

 誰も、声を出さなかった。

 ただ、
 胸の奥にじんわりと、
 温かいものが広がっていく。

 ◆

「それでは、杯を。」

 護衛たちが運んできたのは、
 葡萄を模したガラス細工の小さなカップ。

 弘弥と、ヒロインたち一人一人に手渡される。

 中には、
 先ほど仕込まれたばかりの、生まれたての葡萄ジュース。

 まだアルコール発酵も始まっていない、
 ただ甘くて、瑞々しいだけの果汁。

 それを手に取った瞬間──

(……これが、俺たちの、青春なんだ。)

 弘弥は、はっきりと、そう思った。

 ◆

「それでは。」

 エレノアが、微笑んだ。

「未来に──乾杯!」

「「乾杯!!」」

 声が、重なる。

 それぞれが、
 小さなカップを掲げ、
 口元に運ぶ。

 甘い。
 果てしなく、瑞々しい。

 この一瞬だけ、
 世界は、
 本当に、美しかった。

 ◆

「兄……」

 碧純が、小さく囁く。

「ずっと、一緒だよね……?」

「……ああ。」

 弘弥は頷いた。

「絶対、みんなで乾杯する。」

「この、未来を、絶対に。」

 ルナが、いたずらっぽく笑う。

「へへーっ、兄、今の言葉、録音しておくね?」

「……兄、逃がさないから。」
 紗凪が低く呟く。

「ふふ、未来のために、今日を生きるのですね。」
 すみれが優しく微笑む。

「観察対象、未来確定。」
 ひよりはノートに記録を取り続ける。

「弘弥様……きっと、素敵なワインになりますわ。」
 エレノアが目を潤ませながら言った。

「わ、わたくしも……また一緒に、乾杯したいですの!」
 ミレーヌも、小さく拳を握った。

 ◆

 弘弥は、
 みんなの顔を順番に見た。

 ずっと一緒にいたいと思った。
 この馬鹿みたいな青春を、
 もっと、もっと続けたいと思った。

 たとえ、
 どんなに遠回りをしても。
 どんなに泣いて、笑って、喧嘩しても。

 未来のワインを、
 みんなで飲めるその日まで──

 生きていたいと思った。

 ◆

 夕暮れの光が、
 小さな礼拝堂を満たしていく。

 葡萄の香り。
 笑い声。
 誓いの杯。

 すべてが、
 少しずつ、
 未来へと発酵していった。
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