同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五三七話】『夕暮れの畑、エレノアの強制ディープキス』

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 夕暮れの葡萄畑は、金色に染まっていた。

 収穫を終えたぶどうの木々が、
 柔らかな風にそよぎ、
 空はオレンジと紫のグラデーションで満ちていた。

 弘弥は、
 一人で畑の端に立っていた。

 遠くから、ヒロインたちの笑い声が聞こえる。
 みんな、まだ片付けを手伝っているらしい。

(……やっぱり、いいな。)

 胸の奥に、静かに灯る温もり。

 未来に向けて踏み出す誓い。
 今日のことは、一生忘れないだろう。

 そんなふうに、しみじみと思っていた。

 ──そこに。

「弘弥様。」

 すっと、
 静かな声が背後からかけられた。

 振り返ると、
 そこには、
 金色の髪を夕陽に揺らすエレノアが立っていた。

 白いワンピース。
 素足のまま。
 葡萄の香りを纏って。

「エレノア……?」

「あの……少し、よろしいでしょうか。」

 エレノアは、
 いつもの無邪気な笑顔ではなかった。

 どこか、覚悟を秘めた目をしていた。

 ◆

「今日は、わたくしにとって……本当に、特別な日になりました。」

 エレノアは、
 弘弥のすぐ目の前に立つ。

「先生と……皆様と……こうして、未来に繋がる約束を交わせたこと。」

「──奇跡のように、嬉しいのです。」

 弘弥は、
 何も言えずに頷いた。

 その時。

 エレノアが、
 そっと手を伸ばしてきた。

 小さな手が、
 弘弥のシャツの胸元を、ぎゅっと掴む。

「ですから……」

 その顔が、
 ぐっと近づいた。

「──許してくださいね。」

「え──」

 言い終わる前に。

 唇が、
 重なった。

 ◆

 一瞬、世界が静止した。

 唇。
 柔らかい。
 温かい。
 甘い香り。

 エレノアの小さな手が、
 弘弥の胸にぎゅっとしがみつき、
 離れない。

 しかも──

「……ん……」

 エレノアが、
 軽く、舌を、
 触れさせた。

(!?!?!?!?!?!?!?)

 弘弥の脳内が、完全にショートする。

(い、いま、これ──ディープ、キス……!?)

 しかも、
 拒む隙なんてなかった。

 ただ、
 呆然と、
 金色の少女に、
 口づけを奪われた。

 ◆

 ようやく、
 数秒後。

 エレノアは、
 そっと唇を離した。

 瞳を閉じたまま、
 微笑んで──

「……これで、未来への約束、完了ですわ。」

 と囁いた。

 ◆

「……え、えれ、エレノア……?」

 弘弥は、
 声にならない声を漏らす。

 だがエレノアは、
 くるりとターンして、軽やかに言った。

「さあ、皆様が待っています! お急ぎくださいませ、先生!」

 そのまま、
 裸足で、ぺたぺたと走り去っていく。

 夕陽の中に、金色の髪が溶けていった。

 取り残された弘弥は──

 そこに、
 立ち尽くすしかなかった。

 ◆

 心臓が、うるさい。

 唇が、熱い。

 理性が、
 全然追いつかない。

(……俺……今……)

(……王女様に……ディープキス、された……)

 夕暮れの畑。

 一面に広がる葡萄の香りの中で。

 真壁弘弥、17歳。
 青春、爆発。

 ◆

 その後、
 皆のところに戻った弘弥は、
 顔を真っ赤にしたまま、
 碧純たちに問い詰められることになるのだった。

 ──だがそれは、また別の話。
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