同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五三九話】 『帰国──やっぱり日本食は最高だ!』

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「弘弥様……」

 エレノアが、今にも泣き出しそうな顔で立っていた。
 王宮のプライベートゲート。
 煌びやかな石畳の上に、スーツケースを並べた弘弥たち一行。
 そして、見送りに集まった護衛たちと、
 エレノア。

「わたくし……本当に、楽しかったのです。」

 小さな手が、ぎゅっと弘弥の袖を掴む。

「皆様と、汗をかき、笑い、葡萄を踏み──
 青春を、共に過ごせたこと……」

「それは、わたくしにとって、宝物なのです!」

 ◆

 弘弥は、
 なにも言えなかった。

 ありがとう。
 楽しかった。
 また必ず来る。

 ──そんな簡単な言葉じゃ、足りなかった。

 目の前の少女が、
 どれだけ必死で、王族という重い責務を背負いながら、
 無邪気に笑ってくれていたかを思うと、
 胸が締め付けられた。

「エレノア……」

 やっと、絞り出した声。

「俺も……本当に、楽しかった。」

「絶対に、また来る。」

「未来に乾杯するために、また、必ず。」

 エレノアの瞳に、
 ぽろりと、大粒の涙が零れた。

 そして──

「はいっ!」

 笑った。

 まぶしいくらい、
 子供みたいな笑顔だった。

 ◆

 飛行機へ向かう通路で、
 何度も振り返った。

 エレノアは、
 そのたびに、
 力いっぱい手を振っていた。

 金色の髪が風に舞い、
 遠ざかっていく。

 それを、
 何度も、何度も、
 目に焼き付けた。

(また、絶対に──)

 心に誓いながら、
 弘弥はゲートをくぐった。

 ◆

 日本帰国。

 到着したのは、成田空港。

「うおおおおお!空気が湿気ってる!!」
 ルナが歓喜の声を上げる。

「兄、やっぱり日本は落ち着くよね。」
 碧純が感極まった顔で言う。

「地に足がつく、という表現……体感中。」
 ひよりがメモを取り出す。

「……やっぱり、帰るべき場所は、ここですね。」
 すみれが静かに頷いた。

「おかえりなさいませ、日本。」
 ミレーヌが神妙に頭を下げる。

 紗凪は、荷物を押しながらポツリと呟いた。

「兄、変な国際問題起こさなくて、良かったな。」

「……ほんとにな。」

 弘弥は苦笑いしながら、
 空港ロビーの雑踏を眺めた。

 日本語のアナウンス。
 見慣れたコンビニ。
 制服姿の高校生たち。

 どこもかしこも、
 懐かしくて、
 妙に心に沁みた。

 ◆

「……腹減った。」

 誰ともなく、呟いた。

 そして──

「うどん、行くか。」

「賛成!!」

 全員一致で、
 空港内の立ち食いうどん屋へと向かうことになった。

 ◆

「いただきます!」

 弘弥は、
 うどんの丼を抱えた。

 湯気が立ち上り、
 出汁の香りが鼻をくすぐる。

 箸で一口──

 ずるずるっ──

 ──ずるっ、ずるっ。

 啜る。

 噛む。

 のどを通る。

 そして──

「……っ……」

 目頭が、熱くなった。

「これだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 弘弥、思わず絶叫。

「俺たち、日本人だったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 碧純たちも、
 すみれも、ルナも、ひよりも、ミレーヌも、
 同時に泣きながらうどんを啜った。

 周囲の客たちが
「何事!?」と振り返る中──

 彼らは、
 ただひたすらに、
 日本食の素晴らしさを噛み締めていた。

 ◆

「……兄、やっぱり日本が一番だね。」

「うん、そうだな。」

 弘弥は、
 心から思った。

 どこに行っても、
 何をしても──

 やっぱり、
 帰る場所は、ここだ。

 青春も、
 発酵も、
 笑いも、
 涙も──

 全部、ここから、
 また始まるんだ。

【続く】
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