同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五四〇話】『手作りおにぎり大作戦!』

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「よしっ!」

 碧純が、ダイニングテーブルを勢いよく叩いた。

「次は──おにぎりだよ、兄!」

 帰国したばかりで、まだスーツケースすら開いていないというのに、
 碧純の中ではすでに次なる“青春大作戦”が始まっていた。

「日本の味、もっともっと体に叩き込まなきゃ!」
「だから、みんなで作ろう、おにぎり!!」

 ◆

「おにぎり~?いいねっ、兄には絶対米文化が似合う!」
 ルナが即座に乗ってきた。

「わたくし、日本米に憧れてましたの!」
 ミレーヌも手をきゅっと握りしめる。

「発酵文化、握る文化……次なる青春研究対象に決定。」
 ひよりはすでにノートに「握り文化考察」と記していた。

「……おにぎり。」
 すみれが小さく頷き、眼鏡を押し上げる。

「炊きたてご飯の香り──これぞ日本の心ですね。」

 それぞれの期待が、テーブルの上に広がる。

 弘弥はというと──

「え、ちょ、ちょっと待て。俺はまだ時差ボケが……」

「却下!」

 碧純が断言した。

「兄は黙って座って、私たちが作った日本の味を堪能すればいいの!」

「……わ、分かったよ……」

 弘弥は抵抗を諦め、
 静かに椅子に沈み込んだ。

 ◆

「というわけでっ!」

 碧純が両手を広げる。

「今日のテーマは、『素手で握る!』」

「素手で?」

「そう、素手!!」

 碧純の瞳がキラキラしていた。

「手袋とかじゃなくて、ちゃんと手のぬくもりで、心を込めて握るの!」

「そのほうが──絶対、想いが伝わるからっ!」

 ◆

「な、なるほど~。青春って、温もりだもんね!」
 ルナが笑う。

「衛生管理的にはギリギリですが……文化的には正しいです。」
 すみれが真面目に頷く。

「素手の体温で生まれる微生物発酵……!」
 ひよりがまた危ない方向に興奮し始める。

「わたくしも、がんばりますの!」
 ミレーヌがきゅっと拳を握った。

「……俺だけ、試される側か……」

 弘弥は、胃を押さえながらつぶやいた。

 だが、
 少女たちが楽しそうに準備を始めるのを見て──

(ま、いっか。)

 と、素直に思った。

 こんなふうに、
 無邪気に笑いながら、
 何かを作ろうとする姿が──

 たまらなく、
 愛おしかった。

 ◆

 炊飯器から立ち上る、炊きたての白米の香り。

 ボウルに用意された、梅干し、鮭、昆布、明太子。

 手のひらで丸められる、柔らかいご飯粒。

「うおおお、熱いぃぃぃ!!」
 ルナが絶叫しながら、米を手の上で転がす。

「水で濡らしてからよ、ルナさん……!」
 すみれが冷静にアドバイス。

「兄のために、最高のおにぎりを作るっ……!」
 碧純は真剣な表情でご飯を握りしめている。

 ひよりは無言で、ノートを脇に置き、
 精密機械のような手つきで完璧な三角形を形成していた。

 ミレーヌは「あちちちち!」と叫びながらも、
 ふんわりとした丸いおにぎりを作っていた。

 ◆

(……ああ。)

 弘弥は、
 ふと、思った。

(これ……青春だな。)

 何も特別なことはしていない。

 ただ、
 炊きたてのご飯を、
 少女たちが素手で握っているだけ。

 でもその手には、
 それぞれの想いがこもっていた。

 ぬくもりが、
 愛情が、
 青春が──

 にじみ出ていた。

(これ、絶対、うまい……いや、もう、うまいとか、そういう次元じゃない。)

 弘弥は、
 早くも泣きそうだった。

 ◆

「兄、できたよ!」

 碧純が、
 小さなおにぎりを差し出してきた。

「さあ、兄のために握った、青春の味──!」

「食べてっ!」

 弘弥は、
 両手でそっとそれを受け取った。

 ぬくもりが、
 手のひらから伝わる。

 ふわふわのご飯。
 ちょっといびつな三角形。

 でも、それが、
 とんでもなく、
 尊い。

 ぱくっ。

 一口、噛み締めた。

 ◆

 ──やさしい。

 塩の加減も、
 具材の配置も、
 完璧なんてほど遠い。

 でも。

 そこには、
 確かに、
 少女たちの温度があった。

(……うまい。)

 弘弥は、
 涙が出そうになりながら、
 静かに、噛み締めた。

 そして、決意した。

(……これだ。)

(俺、これを……絶対、小説にする。)

 まだ誰にも言わずに、
 心の中でそっと、
 未来への構想を練り始めていた。
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