同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五四一話】 『素手のぬくもり──おにぎりが青春になる瞬間』

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 ぱくっ──

 弘弥は、碧純の作ったおにぎりを一口噛み締めた。

 口の中に広がる、
 ふわふわのご飯。
 ほんのり効いた塩気。
 そして中心には、甘酸っぱい梅干し。

 それは、
 どこか懐かしくて、
 あたたかい味だった。

(……うまい。)

 心の底から、素直にそう思った。

 でも──

 それだけじゃない。

 もっと、
 もっと、
 違うものが、そこにはあった。

 ◆

「お兄、どう? 美味しい……?」

 碧純が、頬を染めて覗き込んでくる。

「うん……すげぇ、うまい。」

 弘弥は、
 言葉を選ばず、
 まっすぐに答えた。

 その瞬間、
 碧純の顔がパァァァァァァァァァァっと輝いた。

(……やべぇ。)

 弘弥は、
 自分の胸の中に湧き上がった感情に、戸惑った。

(これ、ただの“美味しい”じゃねぇ……)

(──美少女成分が、詰まってる!!)

 ◆

「次、私のっ!」
 ルナが勢いよく、自作のおにぎりを差し出してきた。

 ぎゅっと力強く握られた、
 ちょっとデコボコの大きめ三角。

 ぱくり。

 ──ジュワッと、鮭の脂とご飯の旨味が溢れる。

「ど、どう……?」

「……うん、ルナらしい、元気な味だな。」

「えへへ~♡」

 ルナは、満面の笑みで両手を広げた。

(これも……)
(確実に、美少女成分が混ざってる!!!)

 ◆

「よろしければ、私のもどうぞ。」
 すみれが、上品に差し出したのは、完璧な三角形のおにぎり。

 海苔の巻き方、塩加減、すべてが計算された芸術品。

 ぱくっ。

 ──しっとりと、やさしい。

 噛むたびに、
 ほろりとほどけるご飯粒。

「まるで……図書館の香りがする……」

「……え?」

「いや、なんか、落ち着くっていうか……」
(理性を、癒してくれる……!!!)

(これも、美少女成分ッ!!!)

 ◆

「こちらも、どうぞ……」
 ひよりが、無表情で差し出したのは──

 なぜか幾何学的に完璧な、正三角形おにぎり。

 ぱくっ。

 ──無味無臭。

 だが、
 なぜか、
 噛むほどに、じわじわと幸福感が湧いてくる。

(……これ、たぶん、観察愛だ!!)

(ひよりの観察者成分が、おにぎりに染み込んでるぅぅぅぅ!!!)

 ◆

「わ、わたくしのも、ぜひ……!」
 ミレーヌが、おそるおそる差し出す。

 少し不格好な、丸っこいおにぎり。

 ぱくり。

 ──甘い。
 やさしい。
 そして、少しだけ泣きたくなるような、
 不器用な愛情。

(……ミレーヌの、精一杯の想いだ……)

(これも、確実に、美少女成分ッッッ!!!!)

 ◆

 食べるたびに、
 弘弥の脳はとろけていった。

 ぬくもり。
 愛情。
 想い。

 全部、素手で、
 直に伝わってくる。

(これだ……これだよ……)

 弘弥は、震えた。

(この温もりを……)

(この青春を……)

(俺は──)

(──絶対、小説にする!!!)

 ◆

 テーブルの上には、
 いびつだったり、完璧だったり、
 甘かったり、しょっぱかったり、
 いろんな形のおにぎりが並んでいた。

 でも、
 その全部が──

 世界一、尊かった。

 ◆

 弘弥は、
 拳を握りしめた。

「……よし。」

 小さく呟いた。

「……書くぞ。」

 それは、
 誰に向けた言葉でもなく、
 自分自身への誓いだった。

(“美少女たちの素手おにぎり”──)
(これを、青春の物語に昇華してやる!!)

 弘弥の目が、ギラリと輝いた。

 ◆

 こうして。

 また一つ、
 新たな青春純文学が生まれる準備が整ったのだった──!
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