同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五四四話】『おにぎり聖地巡礼──ファンイベント勃発』

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 数日後。

 日本のとある地方都市──弘弥たちの暮らす街。
 静かだったはずのその街に、突如として、異様な人波が押し寄せていた。

「──こちら、現地から生中継です!」

 リポーターが興奮した声で叫ぶ。

「今、若者たちの間で大ブームとなっている“美少女成分入りおにぎり文学”──『きみと、おにぎりと、永遠と。』!」

「その舞台モデルとなったこの街では、作品にちなんだ“おにぎり聖地巡礼ツアー”が大フィーバー中!」

 画面の向こうで、
 熱狂的なファンたちが、スマホを片手に、商店街を走り回っていた。

 弘弥は、
 テレビを見ながら、頭を抱えた。

「なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 ◆

「兄、すごいね……」
 碧純が、半ば呆れた顔で呟く。

「まさか、おにぎりで町おこし始めるとは……」
 すみれも眼鏡を押さえてため息をつく。

「観察対象、想像を超え続ける生物。」
 ひよりが冷静に記録する。

「兄、マジで……天才だけど、バカだよね。」
 ルナが爆笑して転げ回る。

「わ、わたくしも、巡礼してみたいですの!」
 ミレーヌはきらきらと目を輝かせていた。

 ◆

 だが、ここで終わらなかった。

 最悪のニュースが飛び込んできたのだ。

 ──【○○商店街 素手握り体験コーナー、期間限定オープン!】

「えっ。」

「なにそれ。」

「ちょ、ちょっと待って。」

 弘弥は画面に釘付けになった。

【地元のおにぎり店とコラボ!】
【“素手で握る青春”を体験!】
【美少女たちの想いを再現しよう!】

 画面には、
 エプロンをつけたスタッフたちが、
「素手で!」「ぬくもりで!」「愛を込めて!」
 と書かれた大きな横断幕を掲げ、笑顔で手を振る姿が映っていた。

 ◆

「…………」

 弘弥、完全沈黙。

 碧純が、
 ぷるぷる震えながら言った。

「──兄。」

「これ……」

「青春違うよね!!!???」

 ◆

 リビングにいた全員が、
 総立ちになった。

「違う違う違う!!!」
「それはもう、ただのヤバいやつ!!!」
「青春返せぇぇぇぇぇ!!!」
「兄!早く抗議しに行こう!!」
「先生、責任取るべきですの!」

 一斉にまくし立てるヒロインたち。

 弘弥は、
 魂が抜けた顔で、ソファに崩れ落ちた。

(……俺……そんなつもりじゃ……)

(ただ……みんなの素手のぬくもりに感動して……)

(それを、真面目に、小説に……)

 だが、現実は無慈悲だった。

 街中に、
『青春素手握り体験コーナー』なるものが誕生し、
 見知らぬ大人たちが嬉々として素手で米を握る光景が、
 連日ニュースで流れ続けたのだ。

 ◆

「兄、どうする?」

 碧純が、
 真剣な顔で詰め寄る。

「このままだと──」

「兄の名誉は、“素手おにぎり王”で確定だよ。」

「……ううううう。」

 弘弥は、
 顔を両手で覆った。

 ◆

 そんな中。

「でもまあ、兄らしいよね。」
 ルナが、ニヤリと笑った。

「変態でも、天才でも。」

「青春を、誰よりも真剣に信じてる。」

「だから──私たちは、兄が好きなんだよ。」

 ◆

 静かになったリビング。

 弘弥は、
 顔を上げた。

 そして、
 ぽつりと呟いた。

「……よし。」

「次は……“本物の青春”を書こう。」

 ヒロインたちは、
 呆れながらも、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、次も、兄に付き合ってあげるね。」

「また、馬鹿みたいな青春、やろうよ。」

「今度こそ、素手じゃないやつで。」

 笑い声が、部屋に広がった。

 ◆

 外では、
 今日も「素手握り体験」が賑わっている。

 けれど──

 本当の青春は、
 ここにあった。

 真壁弘弥と、
 彼を支える美少女たちの中に。

【続く】
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