同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五四五話】 『青春は、手で握るものだ』

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 夜。
 弘弥たちは、ダイニングテーブルを囲んでいた。

 テーブルの上には、炊きたてのご飯と、いくつかのおかず。
 それに──ヒロインたちがそれぞれの手で、素手で握ったおにぎりたちが、ずらりと並んでいた。

「……なあ。」

 弘弥は、
 湯気の立つご飯を見つめながら、静かに口を開いた。

「やっぱり、さ。」

「──人が作ったものって、あったかいよな。」

 誰も、すぐには返事をしなかった。

 ただ、
 炊きたての湯気と、
 おにぎりの香りに包まれながら、
 みんな、耳を傾けていた。

 ◆

「料理でも、ぬか漬けでも、ワインでも……」

「たとえ、形が不格好でも、味が多少バラバラでも──」

「そこに、手の温もりがあれば、」

「そこに、想いがあれば、」

「それだけで、世界で一番尊いもんになるんだ。」

 弘弥は、
 ゆっくりと、おにぎりを手に取った。

 素手で握られた、不器用なおにぎり。

 だけど、
 その形は、何よりもあたたかかった。

「機械で完璧に作ったおにぎりじゃ、きっと、こんなふうには感じられない。」

「……誰かの手で握られたから、」

「その人の時間とか、想いとか、未来への祈りとか──」

「全部、ぎゅっと、詰まってるんだ。」

 ◆

 静かな空気が流れた。

 弘弥の言葉は、
 飾られていなかった。

 格好つけたわけでもない。

 ただ、
 心の底から出たものだった。

 ◆

「……兄、さあ。」

 最初に口を開いたのは、碧純だった。

「たまに、すっごいかっこいいこと言うよね。」

「普段は、夢精バレしたり、パンツでパニクったりしてるくせに。」

 くすっと笑いながら、
 だけど、どこか誇らしそうな顔で。

「……そういう兄、私、やっぱり好きだな。」

 ◆

「うんうん!兄、変態だけど、かっこいいとこもあるから困るんだよなー!」
 ルナも笑った。

「青春の温度、実測したいです。」
 ひよりは真面目な顔でメモを取り出す。

「尊敬、という言葉が似合う瞬間ですね。」
 すみれが静かに頷く。

「さすが、先生ですの!」
 ミレーヌがぴょんと跳ねる。

 ◆

「だからさ。」

 碧純が、真剣な顔で言った。

「私たちも──」

「これからも、ちゃんと“青春”作り続けなきゃだよね。」

「温もりを、いっぱい詰めてさ。」

 ◆

「うん。」

 弘弥は、
 小さく、だけど力強く頷いた。

「一緒に、作っていこう。」

「この手で。」

「この心で。」

「──未来を。」

 ◆

「よっしゃーーー!兄のために、青春イベントもっと増やすぞーーー!!」
 ルナが、無駄に気合を入れた。

「兄、覚悟してね。たぶん、まともに休める日、もう来ないから。」
 碧純がニヤリと笑った。

「観察対象、青春地獄突入予測。」
 ひよりがさらっと宣告する。

「でも……素敵な未来になるはずです。」
 すみれが、優しく言った。

「みんなで作る青春……最高ですの!」
 ミレーヌが、目を輝かせた。

 ◆

 弘弥は、
 彼女たちの笑顔を見ながら、
 胸の奥があったかくなるのを感じた。

(……俺は、)

(こんなにも、幸せな場所に、いるんだ。)

 どんなにバカみたいなことでも。
 どんなに恥ずかしい瞬間でも。

 全部、全部──

 この手で、
 この心で、
 ちゃんと、
 掴み続けよう。

 未来へ、繋げるために。

 ◆

 弘弥は、
 手に持ったおにぎりを、
 大事そうに、頬張った。

 ふわふわで、あたたかい。

 それは、間違いなく──

 世界で一番、
 尊い味だった。

【続く】
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