同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五五〇話】 『潜入作戦──リアル抱き枕カバー計画』

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 深夜。

 静まり返った真壁家の二階。
 弘弥の部屋のドアは、ほんのわずかに開いていた。

 中から聞こえてくるのは──

「……ん、あったかい……ふわふわ……」

 寝ぼけたような、
 それでいてどこか甘美な吐息だった。

 ◆

 弘弥は、
 ベッドに転がったまま、抱き枕に埋もれていた。

 部屋中に広がる、二十枚以上の抱き枕カバー。

 そのひとつひとつを抱きしめ、撫で、頬ずりしながら、
 夢の中でも幸せそうに微笑んでいた。

「すべすべ……もふもふ……」
「……最高、これ、最高だ……」

 まるで天国にいるかのような表情。

 だが──

 そんな至福の時間は、
 知らず知らずのうちに、弘弥の体を限界へと追い込んでいた。

 ◆

 ──ぬちょ。

 静かな、しかし確かに湿った音が、布団の中に響いた。

「ふ、あ……」

 弘弥の身体が小さく震える。

 そして──

 次の瞬間。

「……っ……!」

 びゅるっ、びゅるるっ。

 シーツの上に、熱い液体が噴き出した。

 大量の放出。

 濡れそぼる抱き枕カバー。
 じっとりと湿るシーツ。

 弘弥は、
 抱き枕をさらに強く抱きしめ、うっとりとした顔で夢の中へ沈んでいった。

「……幸せ……」

 吐息とともに、
 小さな、満足げな笑みを浮かべながら。

 ◆

 ──その様子を、
 扉の外からこっそり覗き込んでいたヒロインたちは、
 一斉に硬直していた。

「……兄……いま……」

 碧純の声が、震える。

「……まじか……」
 ルナが素で引く。

「観察対象、異常生理反応確認。」
 ひよりが冷静に記録する。

「さ、さすがに……青春、違う気がします……」
 すみれが困惑しながら呟く。

「先生ぇぇぇぇぇぇぇ……!」
 ミレーヌは半泣きだった。

 ◆

「なにあれ……」

「兄、幸せそうすぎる……」

「……私たち、いなくてもいいってこと……?」

 全員の胸に、
 重く、もやもやしたものが渦巻いた。

 これまで一緒に過ごしてきた日々。
 笑ったり、泣いたり、喧嘩したり、仲直りしたり。
 必死に築き上げてきた、青春の時間たち。

 ──それを、
 たかが抱き枕ごときに負けるなんて。

「許せない……!」

 碧純が、きゅっと拳を握り締めた。

 ◆

「だから──」

「リアルで、証明してやる!」

「兄にとって、誰よりあったかいのは、」

「作り物じゃない、私たちだって!」

 ヒロインたちは、
 全員、静かに頷き合った。

 そして──

『リアル抱き枕作戦』

 発動。

 ◆

 深夜二時。

 作戦決行の時が来た。

 少女たちは、
 それぞれ抱き枕カバーを手に取り、そっと中に潜り込んだ。

 碧純は、
 自分のキャラクターを描いた抱き枕に。

 ルナは、
 元気いっぱいポーズのギャルヒロイン枕に。

 すみれは、
 知的な眼鏡ヒロイン枕に。

 ひよりは、
 無表情ロリヒロイン枕に。

 ミレーヌは、
 元気っ子お姫様ヒロイン枕に。

 ──そして、
 全員が、息を殺して布団の中に忍び込んだ。

「絶対に、バレちゃダメ……」
「バレたら……青春死亡……!」

 固く固く、心に誓いながら。

 ◆

 その間も、弘弥は夢の中で微笑んでいた。

「……やわらかい……最高……」

 無意識に手を伸ばし、
 抱き寄せる。

 ごそ、ごそ、ごそ。

 抱き枕──もとい、リアルヒロインたちが、
 一斉にきゅっと縮こまった。

(ち、近い……!)
(兄の顔……やばい……!)
(……心臓、爆発しそう……!)

 全員、顔を真っ赤にしながら、必死で耐える。

 しかし──

 弘弥の無意識スキルは、想像を超えていた。

「──ん……ぬくもり、すき……」

 ぎゅううう。

 リアルヒロインたちを、
 思いきり抱きしめたのだ。

(──ひぁっ!!)

 声を出すまいと、歯を食いしばる少女たち。

 だが、
 弘弥の手は遠慮を知らなかった。

 柔らかな太ももに、
 華奢な肩に、
 繊細な背中に、
 ぴたりと指先が触れていく。

(だ、だめだこれ、限界……!!)

(なんでこんな、ナチュラルにエロいの……!?)

(兄、無意識なのに、罪深すぎるよぉ……!!)

 耐える。
 耐えるしかない。

 だが──

 体温。
 匂い。
 鼓動。

 生身の、圧倒的なリアルが、
 少女たちの理性を、少しずつ削っていった。

 ◆

 そのときだった。

「……あれ……」

 弘弥が、寝言のように呟いた。

「今日の……抱き枕……」

「やけに、あったかい……」

「……なんか、いい匂い……」

「……本物……?」

 瞬間。

 ヒロインたちの背筋に、走った。

(──ヤバい。)

(──気づかれる!!)

 ごくり、と唾を飲む音すら、響きそうな緊張。

 このまま、静かにやり過ごせるか──

 それとも、
 青春死亡エンドか──

 運命の時が、迫っていた。

【続く】
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