同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五四八話】 『使命感で抱き枕と添い寝──プロの仕事だから!』

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 夜。
 静まり返った弘弥の寝室。

 その中心には、
 まるで出陣前の武将のような覚悟をまとった男──真壁弘弥が、堂々と立っていた。

 彼の周囲には、二十枚以上の抱き枕カバーが並び、
 それぞれビニールを脱ぎ、ふんわりとベッドに広げられている。

「……よし。」

 弘弥は小さく頷いた。

「これは、あくまでプロの仕事だ。」

「感情に流されず、冷静に。」

「材質、手触り、発色、縫製──全項目、徹底的にチェックする。」

 まるで医師が手術に臨む前の宣誓のような、静かな気合いだった。

 ◆

 最初の一枚。

 そっと手に取る。

 ──すべすべ。

 まるでシルクのような滑らかさに、思わず指先が喜びの声を上げそうになる。

「触感、合格。滑らかさ、極上……。」

 真顔で呟きながら、
 一度、頬に押し当てる。

 ──ふにゃっ。

(……気持ちいい。)

(だが、ここで甘えてはいけない。)

 弘弥は己を律し、
 次のチェックに移った。

 ◆

 二枚目。

 今度は、若干光沢のあるタイプ。

 手触りはつるつる、
 だが熱がこもりにくい特殊素材らしい。

「おお……これは、温度調整性能が高いな……。」

 弘弥は、
 目を細めながら布の上を撫で続ける。

 ぬるり。
 さらり。
 ぬるり。

(……無限に撫でられる……)

(……これ、最高すぎないか……?)

 しかし彼は、決してデレなかった。
 プロの矜持が、それを許さなかった。

「まだだ……まだ先は長い。」

 ◆

 三枚目。

 四枚目。

 五枚目──

 抱き枕を抱きしめながら、寝転びながら、
 弘弥は一枚一枚、丁寧にレビューしていった。

「これ、ポーズが素晴らしい……添い寝したくなるデザインだ。」

「こちら、若干インク臭が残ってる。製版段階で注意。」

「この生地、発色いいけど、摩擦耐久性は微妙かもしれないな……」

 完全にガチだった。

 その真剣な目。
 妥協を許さないチェック体制。
 メモを片手に寝返りを打ちながら、何度も素材を撫で回す姿。

 それは、
 ──どう見てもプロの仕事だった。

 ◆

 ──しかし。

 部屋の外。

 そっと扉を開けて覗き込んでいたヒロインたちは、
 別の意味で震えていた。

「……兄、何してんの……?」
 碧純が呆然と呟く。

「なんか、めっちゃ真剣なんだけど……」
 ルナもドン引き気味。

「資料用に、触ってるだけ……だよね?」
 すみれが微妙に声を濁す。

「観察対象、現在、抱き枕愛撫モード。」
 ひよりが冷静にメモを取る。

「うぅ……先生、たまに変態さんになるですの……」
 ミレーヌがぷるぷる震えている。

 ◆

 中では、
 弘弥がますますヒートアップしていた。

「この反発力!この包容感!これだ……これを求めてた……!」

 抱き枕に頬をすり寄せ、
 幸せそうにうっとりしている。

(……だめだ……)

(……完全に堕ちてる……)

 ヒロインたちは、
 一斉に頭を抱えた。

 ◆

「ねぇ……」
 ルナが、ぼそりと呟いた。

「これさぁ……」

「兄、もう……」

「二次元で満たされてない……?」

 言葉にすると、途端に現実味を帯びる。

 碧純は、顔を真っ赤にして拳を握り締めた。

「そんなの……!」

「そんなの、絶対やだ!!」

 ◆

「兄は──」

「私たちが、リアルに、青春を支えてあげなきゃ!」

「観察対象、危険水域。」
「このままだと、帰ってこない。」
「青春維持、至上命題。」

 それぞれが、
 使命感に燃え始めた。

「……作戦、立てようか。」
 すみれが、眼鏡をくいっと押し上げる。

「リアルの温もり、思い知らせるべきですの!」
 ミレーヌが拳を突き上げた。

 ◆

 そして──

 夜の作戦会議が、静かに始まった。

『リアル抱き枕作戦──発動。』

「絶対に、兄を取り戻す。」

「素手で、直接、青春を注ぎ込む。」

「──抱き枕に、負けてたまるか!」

 ヒロインたちは、
 それぞれ固い決意を胸に、
 今まさに布団で幸せそうに寝そべる弘弥を、そっと見つめた。

 そして──

 静かに、寝室へと忍び込む準備を始めた。

 ◆

 運命の夜が、
 確実に、近づいていた。

【続く】
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